もう一人の人斬り玖 (ページ6)

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393話ページ6

不「その上、絹が国の重要な輸出品となった明治(いま)では、以前にましていい金になる。ここいらをナワバリとする侠客として、みすみす見過ごすバカはいねェ。そんで儂も一つ、採れた絹糸が一手に集まる、この宿場をおさえようと決めたのよ」
左「おさえようったて、出来るのかよ、そんなコト」
不動沢は升に入った酒を飲みながら、得意げな顔をする。
不「それが出来るのさ。まあ、一介の侠客なら無理だが、儂には大きな「後楯」がある」
左「だったら勝手にやりゃいい」
不「ところがだ、いざ動いたら、とんだ邪魔者が現れやがった。昼間の小娘の親父……こいつが頑固で凶暴で、とにかく始末に負えねェ____」
一方、その頃、その小娘と央太は父親にそのことを話していた。
右「半デコなんて、こんな屈辱初めてよ!」
??「そいつぁ一本取られたな、右喜(うき)」
右「そーじゃなくて、父さん!」
怒り心頭の右喜は笠を編みながらキセルを蒸す父親に文句を言う。ところ戻って、不動沢は顎に手を添えながら言葉を続ける。
不「___といっても、まあ、俺が出張ればひとひねりだが、生憎まだ、お尋ね者にはなりたくねェんでな。コイツらに頼もうと思っていたが、昼間の働きっぷりではとても期待出来ねェ」
そこには居心地悪そうにしている比留間兄弟がいた。
左「なんだ。お前等まだいたのか」
不「そこで、ここは一つ、どうだ。あんたがこの喧嘩、引き受けてみねェか」
左「……………昼間の様なスカシは御免だ。その親父、腕は立つのか?」
不「既にウチの若い衆を五十人程ブッ倒してやがってるよ」
左「……ま、ウサ晴らしには丁度いい。喧嘩屋稼業、再開といくか」
キセルを蒸しながら父親はふと口にする。
??「なんか面白そうじゃねぇか、その若僧」
右「え」
??「縁があったら一度、会ってみたいモンだな」
例の頑固親父は東谷といい、不動沢は始末してほしいと左之助に言うが、左之助は目の色を変える。
左「人を殺し屋みてェに言うなよ。死ぬ死なねェはそいつの運次第。俺のどーこーするもんじゃねェ。俺はケンカが楽しめりゃあ、それでいいんだよ」
翌朝、喜兵衛は弓で“東谷の頑固親父”と呼ばれていた男を狙っていた。
伍「ようく狙ってくれよ、兄貴。このままじゃ俺達、只のパシリだぜ」
喜「わかっておる!ここで一発で仕留めてしまえば、斬左の出番も無し。これで一気に形勢挽回だ‼︎」