もう一人の人斬り玖 (ページ20)

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407話ページ20

右喜が心配性で過保護になったもの、元を質せば、左之助が勝手に家を飛び出してからであった。いつも左之助の後ろをちょこまかついて回ってた右喜は大泣きした。風の便りで左之助が赤報隊に入ったと聞けば、自分も行くとゴネるし、赤報隊が瓦解したと聞けば又、泣く。
上「央太が生まれてちったぁ、落ち着いたかと思えば、今度は菜々芽が逝っちまって、ついにダメ押し。菜々芽は母ちゃんの名前だぞ。覚えているか」
左「覚えているって」
上「誰よりも、何よりも、家族をなくすコトを恐れる様になっちまった…央太もその辺を薄々感じて、黙って自分の役割を演じてるみたいだな…右喜を立てれば、央太は立たず、央太を立てれば、右喜が立たず。まあ、出ていった長男が帰ってくれば、丸く収まるコトなんだがな」
左之助と上下ェ門はせ視線を合わせると、大笑いする。
左「馬鹿言えってんだッ」
上「オウ、馬鹿言ったぜッ。右喜と央太はちゃんと一人前になるまで、俺が守って面倒見る。てめェはとっとと行っちまいな」
左「オウ。とっとと行かせてもらうぜ。俺には守る者も、帰る家も必要ねェ。俺には、コイツが有れば、それで十分。相手が権力だろうが暴力だろうが関係ねェ。俺はコイツを背負って喧嘩をするまで。理想の実現のために、人生をかけたり、かけがいのないもの必死に守ったりしてるイイ野郎共が___心おきなくしっかりと闘えるようにな」
生き生きとした顔を見て上下ェ門は安心した顔をする。
上「…男はよォ」
左「あ?」
上「男ってのは、前を歩む男の背中を見て育つというが、お前はイイ男達の背中を見て来た様だな。出来りゃあ、俺の背中で育てたかったな…」
左「シケたコト言うなって。十の時まではちゃんとあんたの背中で育ったんだからよ。さて…それじゃあ、ここいらで俺は行くとするぜ」
分岐で左之助は父親である上下ェ門に向き合う。
上「東京か」
左「ああ。やっぱり、このままじゃ放っておけねェ奴はいるし…それに嫌な背中、見せちまった奴もいるからな…オイ、丸ホッペ。起きろ、コラ。この間はひでェコト言って悪かったな。今夜はお前が闘(や)る時は闘(や)れる男だとわかって良かったぜ。大変そうだから、もうしばらく____そうだな。姉ちゃんが嫁いで、新しい家族が出来るくらいまでは、いい「弟」でいてやってくれよな。それが出来たら、一度、東京に出て来て、神谷活心流っつう剣術道場の門を叩いてみろ。お前なら必ず、もっと強くなれるはず。頑張れよ」