もう一人の人斬り (ページ36)

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36話ページ36

一方、剣心は朝から何も食べずに動いているから弥彦と薫の分は大きめに作ったが、Aが今どのくらいが良いのかわからず、少し小さめに作る。作り終わったおむすびを笹に包み、道場に持って行く。
剣「ちょいと休憩___みんな朝から何も食べてないからおむすび作ったでござるよ」
近くにいた弥彦とAから渡すと弥彦は不機嫌そうな顔であった。
剣「ほい、弥彦とA」
弥「おう!ゔ～。薫のヤローめ、あんな奴の味方になりやがって」
『まぁまぁ。俺が相手じゃ嫌だったか?』
剣「おろ、Aが稽古をつけていたのか?」
弥「約束だったからな!嫌じゃないんだけどよ…気に食わない」
『姉ちゃんが他の奴に取られて寂しいのか?』
弥「なっ!そういう訳じゃねぇよ!!」
弥彦はAにからかわれて、顔を赤くしていた。そんなやり取りをしている二人を他所に剣心は薫におむすびを渡し、そっと耳打ちする。
剣「弥彦がスネているでござるよ」
薫「ったくもう、子供なんだから。弥彦ォ」
弥「なんだブス!」
薫「何ィーー!!」
一人素振りをしている由太郎に剣心がおむすびを渡す。
剣「はい、由太郎殿」
由「いらねーよ。お前、先生の敵だろ。敵からの施しは受けねーよ」
『食べないとこの後の稽古に支障をきたすぞ』
剣「それもそうでござるな。ホラ、戦国武将の上杉謙信も敵将に塩を送ったと言うし。それに味は薫殿が作ったよりはいいはずでござるよ」
由「………」
『剣心、後ろ後ろ…って言わんこっちゃない』
頭にきたらしい薫は剣心をシバくと大きなたんこぶが頭にできていた。怒っている薫から距離を取るように、剣心は由太郎の隣に座る。
剣「どっこいしょっと」
由「あ、コラ。勝手に横に座るんじゃねーよ!」
剣「どうだ、竹刀剣術は面白いでござるか?」
由「…所詮、遊びだからな。遊びは面白いに決まってるさ。けど、これ以上はやらねーぜ。遊びじゃ強くなれねーからな」
剣「おろ?」
続けないという言葉に疑問を持った剣心は首を傾げた。由太郎は自分なりの誇りに近いものを話した。
由「俺は先生の様な無敵の剣客になって親父を見返してやるんだ」
剣「親父を見返す…でござるか」
由「ああ」
由太郎は、士族としての誇りを捨てて商人になった父親の姿が許せないようであった。
剣「左様でござるか…」
弥彦と性格は近いが、"強くなりたい"と気持ちの面では正反対の出所であった。しかし、今まで稽古をつけてもらえなかったことに対して、薫は一つの提案を由太郎君にする。