もう一人の人斬り (ページ11)

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11話ページ11

それが本音だった。Aは内心、安心とも不安とも言える感覚に襲われていたが、気付かないふりをしていた。剣心から見ると、Aが“かすていら”を食べる手を止めて聞いてきたが、何処と無く安心した色が見えた。彼女が何を思っていたのかはわからないが、多分不必要な心配でもしていたのだろうとこの時は思っていた。
その後、切り分けた“かすていら”を別の皿に移し、弥彦のところへ持って行く。
剣「弥彦、入るでござるよ」
弥「おう」
剣「気分はどうでござるか?」
弥「朝よりかはだいぶましにはなった。さっき、剣心の部屋の方からすごい音が聞こえたんだけどよ…何したんだよ?」
剣「隼人を少し怒らせてしまってな…」
弥「剣心も失敗すんだな。それで、その“かすていら”でご機嫌取りをしたわけか」
そう言って、皿を受け取った。剣心は図星で何も言い返せず、弥彦は鋭いところをついてくるから、隠し事ができないとつくづく感じていた。だから、安心できる反面、危険にさらしてしまう可能性が高くなる。それを避けたいが、今のところ成功しないのが実情。
弥「剣心…もしもの話だけどよ…隼人が女だったらどうするよ?」
剣「今までどうりでござるが?」
弥彦は盛大にため息をつく。
弥「今までどうりにできるか?剣心ってたまに抜けてるから一番心配するんだよな」
中々、痛いことを言ってくる。剣心はAが女である事、今のままの自分でいられなくなる事、全てを見透かされているような気がした。このままでいられなくなるのをわかっているつもりだったからこそ、それが何より怖かった。
剣「弥彦の言うとおり、今のままでいれる自信はないでござるな…」
弥彦の予想を反して、剣心は少し困った笑みを見せて空いた皿を持っていってしまった。
剣心は厨で皿を片していると、薫が帰宅する。
薫「ただいま、剣心」
剣「おかえりでござる、薫殿」
薫「ねえ、隼人とはどういう関係なの?」
剣「ん、幕末の時の背中を預けられる仲間、でござるよ。それ以上の何かがある訳でもないし」
薫「…そう。それと隼人って、どこに居る?」
剣「自室に居るのではござらんか?」
剣心が生き生きと話す様子に薫はどことなく、寂しげな顔をしていたが、剣心にはこの時、何を意味していたのか、知る由もなかった。その頃、Aは部屋で仕事を再開していた。
『さて、本業を再開しますか』
部屋で一人呟き、文机に向かった。