元柱だった隊員・2【不死川実弥】

98話 ページ48

一年後。

Aは身ごもった。


『赤子が、ここに？』

「えぇ」


産婆が聴診器を外しながらAに頷いた。


「ここに、確かに胎動を感じるよ」


Aは喜びのあまり、隣で固まっている実弥の手を握った。


『実弥、良かったね』

「あぁ、そうだな」


漸く現実に戻ってきた実弥も嬉しそうに笑う。

現役鬼殺隊だった時と違い、今の彼は本当に優しく笑う。誰が見ても同一人物か疑うものだ。


「でも、あなたの活躍は聞いてたけれど、正直懐妊できる体じゃないって思ってたんだけどね」

『……』

「あなたが十八の頃、そこの旦那と一緒に貫かれた時、あったでしょう」

『そんなのありましたね…』

「あの時の腹部損傷や、二十一の頃、弾を浴びた時のけが、それからこれまでの身体の酷使。
その他諸々で、懐妊は難しいと思ってたんだがねぇ」

『……それでも、この子はここに来てくれた。
私たちのところに、来てくれた』


Aは実弥の手を握って涙を流した。


『それだけで、いいんです。』

「A」

『無事に生まれてきてくれれば、それで……』


Aは実弥に抱きしめられて涙を流した。

その様子に産婆は二人を優しく抱きしめ、その温もりに実弥は母の温もりを思い出した。


「私が何がなんでも二人の元にこの子が来てくれるように支える。
いつでも頼りにしてくれていいんだよ。
それが、蟲柱様からの、最後の願いだったんだからね」


Aは嗚咽を堪えられないまま、泣きじゃくった。

実弥も唇を噛み締めて、Aの涙を受け止めていて、産婆もそんな実弥の背中を優しく撫でてくれた。

頼れる親のいない二人にとって、その温もりはとても胸が温まる温もりだった。



.



.



.



それから、しばらくして秋になる頃、屋敷で二人分の産声が響いた。

Aは、双子の赤子を無事に出産したのだ。


「頑張ったね、無事に生まれたよ。
元気な女の子と男の子の双子だ」

『良かった……、生まれた、生まれたよ……みんな…』


Aと実弥は涙を流してAが女の子を、実弥が男の子を抱えた。


『生まれてきてくれてありがとう』

「ははっ、赤子ってあったけぇな、相変わらず」


Aは実弥の涙を見て、更に涙が溢れてきた。

実弥はその温もりを亡くした。

もう一度、その機会をあげられた喜びでもまた、涙は止まりそうになかった。

ただただ、幸せだ。

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