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それから10日程経って、カレンダーは4月になった。
ユリアンは、あの後早速内田さんのユニフォームを手配してくれて、いつでもサインを貰える準備が出来ていたが、まだ彼からの連絡はなかった。
忙しいのだろうと思うと、あんなお願いをした事を後悔した。
夕方になり、姉がボランティアの絵本読み聞かせから帰宅した。
彼女は、日本語の講師の他にも、幼稚園児を対象にした絵本の読み聞かせも受け持っている。
何か、社会と繋がっていたいのだそうだ。
「お帰り」
「ただいまー。今日の晩ごはんどうしようか? フィリップは遅いし、ユリアンはいないし」
「それが、ユリアンは予定が変わったって、今、電話来た」
「え? そうなの?」
「ヤコちゃんの携帯繋がんないって、あたしにかけてきた。もうすぐ帰って来るって」
「んじゃ、何か作るか」
手伝うよって、言おうとしたら、手にしたままの携帯が震えた。
画面には番号だけが表示されていて、未登録の相手からの着信に、私は出るのを躊躇した。
「…どうしたの?」
「知らない番号…、あ、切れた」
「…用があるならまたかけてくるわよ」
そうだね、って、言ってるそばからまたかかって来た。
「…あ、もしかして…」
姉も、同じ事を考えているような顔をしている。
もしかしたら・・・。
「…あ、こんにちは、 あの、内田です」
聞こえてきたのは、少し緊張したような日本語だった。
「あ、こんにちは」
やっぱり内田さんだった。
この間のお礼を言って、どこにユリアンのユニフォームを受け取りに行ったらいいかと言ったら、彼は少し私を困らすような事を言い出した。
「…えーと、どうしましょう…」
姉が横でどうしたの? という顔で見ている。
「ちょっと待って下さいね」
私は、電話を手で押さえながら、姉に助けを求めた。
「大きいユリアンがあたしに会いたいって言って、会わせてくれないとサインしないって駄々こねてるって」
「あはは! なーんだ、そんな事!」
その時、リビングのドアが開いて、小さいユリアンが帰って来た。
それを横目で見ながら姉が言った。
「もし良かったら、うちに来てもらえば?」
「え?」
「お礼に食事、ごちそうしますって言って?」
ほら、早くと、姉が私を急かす。
「あ、あの内田さん? もし大丈夫ならデュッセルドルフまで来れますか?」
こっちのユリアンが、小躍りしながらここの地図のURLを検索し出した。
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馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、コメントありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね!f(^^;) (2014年1月15日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね!まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、コメントありがとうございます。ピーコートのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
星(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ(笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、コメントありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:馨子 | 作成日時:2013年11月30日 1時