その軌跡を語るなら

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《篤人も語る》

「Aさん、いつも寂しそうに笑ってたから」

だから、気になった。
いつの間にか、Aさんの事ばかり考えてた。
でも、あの人が楽しく過ごせるなら、それでいいやって思う自分もいた。

「だから、Aさんが本当に笑っていられるなら、それが他の誰かの為とかでもいいんだけど、でも、出来れば、その誰かは俺だったらなって…、俺じゃなきゃやだなって」

だから、俺はあの時、彼女に好きだと言ったんだろう。
でもそれは間違いだったのかも。
結局、彼女を悩ませるだけだったかも知れないし、あの、姉と弟みたいな関係でいた方が、誰かがAさんを幸せにするのを見ている方が良かったのか。
いや、無理。
・・・見てるだけなんて、出来ねえだろうが。
もうそんなのは無理なんだ。

写メのAさんは、俺が見たこともないような笑顔だった。
色々片付いて、吹っ切れて、それでそんなに笑ってるのかも知れないが。

彼女にこの先、辛い事なんかなくて、こんな風に笑ってられるなら、それが一番だと思う。
そして、その時、そばにいるのは、やっぱり俺じゃなくちゃ嫌なんだよ。
俺がAさんを幸せにしてあげたいし、Aさんに俺を幸せにして欲しい。

「Aがどういう結論を出すかは解んないけど、あの子と篤人君がもし駄目だとしても、今まで通りうちには、いらっしゃいね？」
「ヤコさん…」
「ここをドイツの実家だと思っていいから」
「でも…」
「もちろん、篤人君が良ければ、だけど。Aの事とそれとは別の話だから」
「うん、ありがとう」

先伸ばしにしただけで、あの人の答えは変わらないのかも知れない。
彼女が俺の事を嫌いと言ったのは、それは俺の為を思っての事なんだろうし。

早く夏が終わればと思ってたくせに、今は逆の事を考えてる。
弱ぇー。
ダメだ、もっと強くなんないと。
もっと大人になんないと。
俺は、彼女がどんな気持ちであの長くて綺麗な髪を切ったのかを解ってあげたい。

「俺、まだまだ子供だから、これからもっと成長するし、それをAさんにそばで見ていて欲しいんだよね。一番近くで俺を見ていて欲しいんだけどなー…」

1ヶ月後、Aさんはどんな顔で、どんな答えを持ってドイツへ帰って来るんだろう。
それが、俺にとって辛い選択だとしたら、俺は彼女を諦めなきゃいけないんだろうか。
俺はAさんを、諦められるんだろうか。

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