その軌跡を語るなら

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《美也子が語る》

8月になって、今週末からリーグ戦が開幕するという月曜日、篤人君がうちにやって来た。
約2ヶ月振りに見る彼は、すっかり日焼けして、精悍な顔つきになっている。
いや、日焼けのせいだけではなく、なんだかとても大人っぽくなった。

「Aさんから連絡とか来る？」

ほら、その表情なんか。

「うん、時々ね。今、あの子北海道に行ってる」
「…旅行…？」
「あ、大丈夫よ？ 友達とだから(笑)」

や、別に、と言いながら苦笑い。
気になるよねー(笑)。

「特別に見せてあげる」

私はそう言って、自分の携帯を篤人君に見せる。
開いたメールは昨日Aから送信されたもの。

【sub：北海道より】

【玲が北海道に連れて来てくれました。美味しい物も沢山食べました。(^^)v
レンタカーはなんと、オープンカー！
私たち、北の大地を駆け抜ける風になってます。】

添付されている写真は、ふたりが屋根のない車から上半身を出して、楽しそうに笑っているところ。

「それが玲子ね、Aの大親友」
「…Aさん、髪、切ったんだ」
「そうみたいね。でも似合ってんじゃない？」
「…うん、すっげ可愛い(笑)」
「…その写真、篤人君にあげるから、自分の携帯に送りなさい」
「…！ いいの？」
「内緒よ？」

嬉しそうに、自分の携帯をポケットから出した。

「…でも、ヤコさん、反対だって言ってたのに？」
「それは今も。でも、篤人君見てると、助けてあげたくなっちゃうのは何でだろう(笑)？」
「助けて助けて！ ぁははっ」

一頻り笑った後、篤人君は深くため息をついて言った。

「俺、やっぱりあの人の事、好きなの」

一体、Aのどこがそんなに彼を惹き付けるのだろう。
あんな、年上でしかもバツイチ。
確かに、あの子は綺麗だけど、あの位なら、しかも篤人君なら他にもっと、と思う。

「どうして、そんなにAがいいの？」
「そんなの、俺が聞きたいくらい…」

さっきの写メを見ながら、篤人君が小さく笑った。

「…すげー楽しそうじゃん？」
「…そうね」
「こんな風に笑うの、俺も見たいんだと思う」
「…篤人君…」
「Aさん、いつも寂しそうに笑ってたから」

そう言ってる篤人君も寂しそうだった。

「だから、Aさんが本当に笑っていられるなら、それが他の誰かの為とかでもいいんだけど、でも、出来れば、その誰かは俺だったらなって…、俺じゃなきゃやだなって」

照れくさそうに笑う篤人君が、私にはやっぱりとても大人に見えた。

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