その軌跡を語るなら

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《篤人が語る》

いくら、連絡しない約束だからって、オーストラリア戦の後にはメールくらいくれると思ってた。
でも、Aさんは、ブレない人みたい。
日本にいるんだから、テレビできっと観ただろうに。
麻也が言ったように、びびってしまったか。

俺だってプロだから、試合はきちんとこなすけど、それ以外は正直気分が沈んでいた。
テレビの仕事で一緒だった永嗣さんと長谷部さんが心配してくれた。
俺もこの人達くらい大人なら良かった。
Aさんからしたら、やっぱり俺はまだ子供で、男として見てもらうのは無理なのかな、とか、多分、もう離婚したはずのAさんは、今はそんな事考えられないだろうなっても思う。
そして、連絡をくれない事が、あの人の、答えのような気もした。
こんなに辛くて長い夏は初めてで、早く9月になればいいと、何度も思った。

今は、チームのキャンプでオーストリアに来ている。
麻也のチームとの試合もあったが、あいつは出なかった。
脚の状態は聞いてたから、まあ、多分出ないとは思ったけど、もし出れたら J 以来の対戦だったから、少しだけ楽しみではあったかな。

「連絡来ないって、自分から言い出したんでしょ？」
「そうだけど…」
「…どうした、篤人！ おかしいよ？ 」
「…うん、変だから、俺(笑)」
「…そんなに？ 好きなの？ Aさんの事」
「…自分でも不思議、こんなの。でも、すげー好き」

麻也が本気で驚いていた。
俺だって、驚いてるもんね。
自分にこんな熱い感情があったなんてさ。
この気持ちを恋と呼ぶなら、俺は今まで恋なんかした事なかったんだろ。
ただ俺は、辛い事が多かったあの人を楽にして、もう苦しむ事がないようにしてあげて、そんで、Aさんの全てを俺に預けてくんないかなって思ってるだけ、そんだけ。
いや、結構欲張りか。

「…本気なの？」
「…そんな心配そうな顔すんなって(笑)」
「…会えないから、余計に気持ちが膨らんでるって事はないの？」
「解んね(笑)」

端から見れば、楽しそうに話してるようにしか見えないんだろうな。
俺たちが、こうやって喋ってる写真が、お互いのチームのtwitterにアップされたけど、実は、こんな話をしてたって事は、まあ、内緒。

「…会えない時間が、愛を育てちゃうからね(笑)」
「お前が言うと洒落になんね」
「篤人が大人になってくなー(笑)」
「いや、俺の方が先輩だから(笑)」
「ま、健闘を祈ります、先輩」
「サンキュ」
「あ、デレが出ちゃったね」
「バカ」

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