その軌跡を語るなら

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玲子の新しい恋人は、5歳年下だった。驚いた。

「あたしたち、年下キラーじゃん」

と、ニヤニヤ笑う玲子と彼は、仕事を通して知り合ったらしい。
玲子の会社は、洗剤の業界新聞を発行している。
ということは。

「篠田さんは、洗剤関係のお仕事？」
「はい、衣類用洗剤の開発をしてます」

通りで石鹸みたいに爽やか。
白衣なんか着て、小難しい事やってる化学オタクよね？ って、玲子に言われて、怒るどころかニコニコしちゃってるけど。
そのオタクの彼氏が埼玉スタジアムまで送ってくれると言う。
迎えに来てくれた篠田さんと、お昼ごはんを食べながら、玲子に、如何に麻也ちゃんが可愛いかについて聴かされる。

「篠田さん、こんな人のどこがいいの？」
「…あ、えと、全部、可愛いですよ？」

玲子のどや顔に参っていたら、山本さんから電話が来た。
先程離婚届を提出したとの報告だった。
お礼を言って電話を切る。

「古屋 Aに戻りました(笑)」

私は、笑っているのに泣いていた。
玲子は黙々とパスタを食べ続け、篠田さんはオロオロしている。

「いい？ 篠田 諒。美人がみんな幸せかと思ったら大間違いだかんね」
「玲子さん！ なんて事！」
「でも、大丈夫。美人には次がある」

埼玉へ向かう車の中でも、玲子の麻也ちゃんトークは止まらない。
でもおかげで、私も段々楽しい気分になっていた。
スタジアムへ近付くに連れて、青いユニフォームを着た人の数が増えて来る。
UCHIDA と書かれた 6 番のそれにばかりに目が行く。
殆どが若い女の子だった。
篠田さんにお礼を言って、大分手前で車を降りた。
同じ方向へ向かう人の波に混ざり、私たちも歩き出す。
玲子がひとりで走って行ったかと思ったら、タオルマフラーを買って戻って来た。
ユニフォームは、ちょっと恥ずかしいから、と言って、6 番のを私に寄越すと、22 番のタオマフを自分の首に巻いた。

「…暑くないの？」
「暑いよ！ でも巻く！」

代表では、22は麻也ちゃんなのか。少し変な感じがした。
私は恥ずかしくて巻くのは無理なので、6 番はバッグにしまった。

この後、初めて直接篤人君の試合を観た私は、ひどく後悔する事になる。
何故なら、テレビでは解らない、そのうねりの様な、渦の様な、圧倒的な青い世界の底で躍動する篤人君に、その輝きに、私は心を奪われてしまったから。
いや、それはもう解っていた事かも知れない。

「A、泣いてるの？」

そして、私はどうしようもない人間だという事も。

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