44．25-2 ページ44
翌日、山本弁護士に会いに、彼の事務所を訪ねた。
用意されていたのは、後は私が記入するだけになっている、緑色の用紙。
これを出したら、もう本当に私と崇史さんは他人に戻る。
もっと頑張れたんじゃないかなと、少しの後悔は、彼への未練なのか。
いや、全て済んだ事だ。
生まれ変わって、新しい自分になって、一からやり直す。
「山本さん？」
ペンを走らせながら、私は実はまだ山本さんにお願いしていなかった車の事を切り出した。
「うちの車、実は私名義なんですけど、崇史さんがそのまま使うのであれば彼の名前に替えて貰えますか？」
結婚前から乗っているPOLOは、ドイツへ持ってはいけない。
崇史さんが乗るなら、彼が構わないなら、そのまま置いて行く。
「それについては、崇史さんからも聞いてました」
そう言って、山本さんは奥の金庫から白い封筒を出して来た。
「崇史さんから、慰謝料として預かった物です」
私の前にその封筒を置いた。
「2年間の結婚生活からすると、少し相場よりは多いですが、車の譲渡分の上乗せとすれば妥当な額だと思います」
慰謝料って・・・。
「受け取れません。我が儘を言ったのは私の方なんだし」
「…Aさんの気持ちも解りますが、これは、崇史さんのプライドですから」
どうして、こんな。
「受け取ってあげて下さい。じゃないと、僕も困ります(笑)」
村上の姓で、と言われ、車関連の書類にもサインをする。
「では、確認させて頂きます。まず、車の名義を変更した後、こちらの届けを提出します。…僕が出しに行って構いませんか？」
「…そうですね、お願いした方がいいのかも」
「解りました。では、明日の午前中に提出します。その時間は連絡がつくようにしておいて頂けますか？」
「はい、解りました。よろしくお願いします」
本当は自分で出しに行こうと思っていたが、それも山本さんの仕事かなと、お願いする事にした。
そして、明日の午後には、もう私は村上ではなくなるのだ。
少し不思議な感じがした。
そのまま両親の墓前に向かった。
途中で花と線香を買い、墓地の入り口で桶に水を汲む。
墓の前まで来て、花器にすでに花があるのに気付いた。
・・・崇史さん、だろう。
あの人なりに、私の両親に詫びてくれたのだと思うと、涙が出てきた。
私は間違っているのだろうか。
いや、あの日、私たちは終わったのだ。
戻れるはずがない。
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馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね！f(^^;) (2014年1月15日 7時) (
レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね！まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。ﾋﾟｰｺｰﾄのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
星(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ（笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：馨子
| 作成日時：2013年11月30日 1時
