その軌跡を語るなら

5．3-1 ページ5

《篤人も語る》

パーティーに行けとかって！
たまにはそういうの、出ろとかって？
意味解んね。
俺、割とそういうサッカー以外の仕事、協力してんじゃん。
なんか料理するイベント行ったり、スポンサーのガスで走る車のヤツ行ったり。

しかも、まだシーズン中だってのに。
来週には最終予選も控えてるってのに。
大体、日本人は、パーティーなんか行かないんだって。
しかも、そういうの苦手だし。
とりあえず、旨いもん食って、さっさと帰って来ていい？って、担当の人に聞いたら、苦笑いされたけど、駄目って言われなかった。
数会わせだろ、どうせ。
ユリアンが行けなくなったから。

一件、取材が入っていたから、みんなとは一緒に行けなくて、一人で会場へ向かった。
デュッセルドルフのホテルの車寄せでタクシーを降りて、ロビーに入ると、俺を見つけて駆けてくる人がいた。

「内田さん、ご無沙汰してます」

俺の車をリースしてくれてるVWの担当の野上さんだった。

「こちらこそ、ご無沙汰してます」
「車の調子、どうですか？」
「全然。なんの問題もないです」
「何かあったらすぐ言って下さいね」
「ありがとうございます」
「あ、会場、こっちです」
「え？ 今日のって、野上さんとこの？」
「…相変わらずですね？ 何の集まりか解んないで来たんですか？」
「おととい、急に行けって言われちゃったから」
「一応、今日のは、うちがスポンサーをさせて頂いている企業様の異業種交流パーティーです」
「はあ」

軽く笑われる。

「せっかくいらしたんですから、楽しんでって下さい。桜の季節なんで、中はお花見会場のようなセッティングですよ」
「はい、ありがとうございます」

案内されたホールには、思った以上の人がいて、先に来ていたチームメートを探すのに手間取った。
確かに、花見の雰囲気が漂っている。
飲み物を渡してくれた女の人も、桜色の着物を着ていた。

奥の方にいたパパを見つけて、そこに向かう途中で、突然日本語が耳に入って来た。
え？
振り向くと、さっきの野上さんが綺麗な女の人と話していた。

6．3-2→←4．2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す