その軌跡を語るなら

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《篤人も語る》

帰国した。
Aさんはまだドイツ。

日本に帰って来ると、ドイツでの静かな暮らしが嘘みたいだ。
いつもながら、過熱気味のメディアに参る。
それを忘れていたわけではないが、毎回、日本で繰り広げられるサッカー選手らしからぬ扱いが、まだドイツにいる彼女の目に触れない事はありがたい。
ただ、それも時間の問題だ。
失敗したかも。
でも、ドイツでの俺しか知らない、サッカーもよく解らないあの人に、自分から、日本代表なんです、しかもそこそこ人気があるんです、なんて言えるかっての。

特に今回は麻也の披露宴に出るから、結婚絡みの質問が多くて更に参る。
応援してくれるのはありがたいと思う。本当に。
でも、ボーダーの上にチェックのシャツを着ちゃうような男ですよ、俺は。
一体こんな男のどこがいいんだか。

麻也の披露宴でのスピーチは、泣く人が出ちゃう位の出来だった。
麻也も奥さんも、幸せそうだったし、25歳の恋するオトコは、自然とその姿に自分とAさんを重ねてしまったりして。
・・キモいね。

今は代表合宿に参加中。
そんでこれから新郎の部屋で、事情聴取をされるらしい。

「そりゃ、顔でしょ？ 」
「あ？」
「いや、俺のどこがいいんだかって言うからさ。さて、恋バナしようか？」
「…お前、今から俺が言う話を聞いたら、そんな楽しそうな顔、出来なくなっぞ」
「…え？」

俺は、あの日Aさんが話してくれた事を、大きな顔を心配げに曇らせてる麻也に語った。
麻也は、無責任に俺をけしかけるようなメールを送った事を詫びた。

「…ごめんね、ちょっと軽率だったわ」
「別にお前に言われたからって訳じゃないし」
「…お姉さんも反対ってのもアレだよね、どアウェーな感じ」
「ま、俺じゃ受け止めきれないって思うんでしょ」

当たり前だよね、そんなの。
年下のサッカーバカには無理だろって。

「…来週、Aさんも帰国すんだよね？」
「ああ」
「日本でのウッチー人気を知らないんでしょ？」
「多分ね。 サッカー、全然解んない人だから、でも、もしかしたら、…や、うん、知らないと思う」
「となると、かなりのマイナス要素じゃん」
「…引くかな？」
「引くし、ビビると思う」

マスコミとファンのみなさん、お願いですから俺の事はそっとしといて下さい(涙)
じゃないと、この負けられない試合の雲行きが・・・。

「麻也、篤人なら大丈夫っしょって、言ってくれよ」
「…さすがに、無理っす、内田先輩」
「…使えねえ」

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