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キッチンで朝食の準備をしていたら、篤人君が起きて来た。
「…ヤコさん、おはよーございます」
「おはよ」
「あー、なんか、勝手に泊まっちゃってごめんなさい」
「いいわよ、そんなの。今日は、練習?」
「うん、10時から」
「じゃ、朝ごはん食べて行きなさい」
「ありがとう。…ヤコさん、あのさ」
「うん?」
「俺の気持ちは変わらないから」
「…Aはなんて?」
「嫌いだって、俺の事(笑)」
「あいつー(笑)」
篤人君は少し笑ってから、聞きにくそうに小さな声で言った。
「…Aさんの身体は、あの、…大丈夫なの?」
「…ありがとう、心配してくれて」
「…流産、って、俺、解んないけど、身体が一番大事だからさ」
「篤人君、優しいのね? Aは大丈夫だから」
いや、別に優しくなんかないっすよ、と手で鼻を触っていた。
照れ隠し?
「…途中からさ、俺、ずっとAさんの手ぇ握ってたの」
味噌汁を作りながら、私は黙って聴いていた。
「しかも、話の流れで一度はめた指輪を、俺が外したの」
・・それって。
「…そんなの、俺は受け入れてもらえたと思うでしょ?」
「…そうね」
「でも、違うんだって。俺、すっかりその気で、もうあの人は俺のだと思って、身も心もぽかぽかだったのにさ」
ぽかぽかって! なんて可愛いの!
でも、篤人君が気の毒になってきた。
そんな思わせ振りな事、させといて? もしかして、Aって小悪魔なの?
「…篤人君、ふられたって事?」
「いや、違うし、ヤコさん、直球すぎるし。…とりあえず、9月までの宿題にして貰った」
「夏休みね?」
「そうそう(笑)。…俺も、Aさんも、2学期までよく考えるっていう宿題」
「Aはいつも、ギリギリになって焦るタイプだったけど?」
「マジで(笑)」
「…別にこれで終わりにしたって、誰もあなたを責めないからね?」
「…ヤコさんは反対?」
「…そりゃ、あたしだって、篤人君の恋が上手くいけばいいと思うけど、相手がAとなると話は別だわ」
男は引き際も大事よ。
篤人君が深いため息をつく。
「あんたたち、ふたり共辛い思いをするんじゃないかと思うもの」
「Aさんはともかく、俺は辛くてもキツくても構わない。あの人が俺を見てくれるなら」
その目は前を向いていた。
「! 俺、ちょー恥い事言ってるし(笑)」
「ほんと!」
「でもマジで、すげー好き」
篤人君の顔付きが、昨夜までとは違って見えた。
男の顔をしていた。
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馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、コメントありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね!f(^^;) (2014年1月15日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね!まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、コメントありがとうございます。ピーコートのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
星(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ(笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、コメントありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:馨子 | 作成日時:2013年11月30日 1時