その軌跡を語るなら

37．21-1 ページ37

《美也子が語る》

3月の初めに、フランクフルトの空港で、母の一周忌以来に会ったAはすっかり痩せてしまっていた。
160㎝の身長に、体重は45㎏を切っていたらしい。
痩せて、小さくなってしまった妹は、精神的にも、肉体的にも、もう限界だったに違いない。
可哀想なくらい憔悴していた。
食事もあまり摂れていなかった。

玲ちゃんから連絡を貰って、事の次第を聞くまで、私は本当に何も知らなかった。
Aは、流産の事ですら私に伏せていた。
私は、そこまで追い詰められていたAに対して申し訳ない気持ちで、玲ちゃんは、近くにいながら気付いてあげられなかった事に対して申し訳ない気持ちで、私たちは、電話口で泣いた。
海も国境も越えての大号泣だ。
そして、泣いた後は、私たちのAをどうやって復活させるかを話し合った。

Aは離婚を決めているし、仕事も半年休むらしい。
ならとりあえず、ドイツへ呼ぼうかと思った。
玲ちゃんは、Aを預かると言ってくれたが、そこまで彼女に甘える訳にはいかないと思った。

ただ、最近は、ご飯もよく食べるようになったし、少しふっくらして来た。
女なんて、どんな理由であっても体重が減るのは嬉しいものではあるが、でももう少しぽちゃっとして欲しい。
それでも、ウォーキングを兼ねて、買い物に行ったりするようになり、家の中にばかりいた最初に比べれば、大分いい傾向かなと思う。

そんなAが、楽しそうに料理をするようになったのと、篤人君が度々うちを訪ねて来るのは、食事だけが目当てではないと気付いたのは、同じ頃だっただろうか。
フィリップも、ユリアンですら、篤人君の気持ちに気付いたが、その視線の先の本人は、まあ、Aは今、それどころではないけれど。

ただ、彼が軽い気持ちなら、Aは傷付くだろうし、かと言って、真剣になられても、なんだか篤人君を騙しているようでフェアじゃない気がした。
何より、Aはまだ既婚者だ。


翌朝、リビングへ降りて行くと、ブランケットに包まったふたりがソファーで眠っていた。

「あらあら」

ま、お似合いではあるわ。

篤人君の肩に預けたAの頭に、篤人君の頭が乗っている。
そして、テーブルの上には、Aの結婚指輪が置かれていた。
朝の光がふたりを包んで、まるで宗教画のようだ。
ゆうべ、Aは篤人君に上手く話せたのだろうか。
穏やかなふたりの寝顔に、私は少し複雑な思いがした。

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