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誰も私を責めなかった。
責めなかったが、崇史さんはひどく落胆していた。
彼は以前から早く子供が欲しいと言っていたから。
妊娠を告げた時の、彼のあの笑顔を、私は今でも思い出せる。
崇史さんの部署に新しい上司が異動して来たのもその頃だった。
彼の苦手なタイプだった。
仕事が上手くいかなくなって、イライラして私にあたることもあった。
私は、流産の事もあり、彼に負い目を感じていたので、耐えるしかなかった。
ひどい事を沢山言われたが、頭のいい人だから手をあげる事はなかった。
だから私の身体にあざや傷が出来る事はなかったが、心は深く沈んでいった。
私はただひたすら、彼がこのスパイラルから抜け出てくれるのを祈った。
良かれと思うことは、何でもやった。
前のように、優しい崇史さんに戻ってくれると信じていた。
私は崇史さんの為だけに存在した。
今となっては、何がきっかけだったのか、もうそんな事はどうでもいい。
ただあの日、初めて彼が私に手をあげた。
頬を叩かれた私は、ぶつかった食器棚の扉のガラスで左の頬の下の辺りを切った。
でも、痛さよりも、怖さよりも、ひどく出血していることよりも、彼がそのまま家を飛び出して行ってしまった事の方がショックだった。
どうしてこんな、怪我をして血だらけの私を置きざりに出来るの？
何とか元に戻ろうと、私は自分なりに頑張って来たのに。
でも、もう無理だった。
彼にとって、もう私は・・・。
病院へ行く為、タクシーを呼んだが、やって来たドライバーは、顔をタオルで押さえ、肩から胸にかけて血だらけの私に乗車拒否をした。
押し問答をしているところへやって来たのは、玲子だった。
彼女はタクシーを帰すと、地下の駐車場から私の車を出して来た。
彼女の運転で病院へ行き、傷の処置を受けた。
玲子は恐ろしい位に冷静だった。
ただ、医師が、痕が残ると言った時だけ、詰め寄って、何とかならないのかと泣いた。
私はそれを他人事のように見ていた。
怪我をした、という事だけを連絡して、会社には1週間休みを貰った。
その間、私はずっと玲子の家にいたが、昼間はひとりなので今後の事を考える時間は沢山あった。
崇史さんとは別れる。
仕事も辞める。
あの時の私は、もう何もかもがどうでもよかった。
何もかもが面倒だった。
一生懸命やって来たはずの何もかもが、わずらわしかった。
生きているのも嫌だったが、それを止めるのすら面倒だった。
崇史さんから連絡はなかった。
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馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね！f(^^;) (2014年1月15日 7時) (
レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね！まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。ﾋﾟｰｺｰﾄのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
星(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ（笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：馨子
| 作成日時：2013年11月30日 1時
