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《篤人も語る》
「篤人君、ちょっと待ってて」
と言って、Aさんがリビングから出て行った。
俺は、ひとりになって初めて、自分が意外と落ち着いている事に気付いた。
何を聞いても大丈夫だ。
そう思ってた。
彼女が持って来た物を見るまでは。
コトリ、と小さな音を立てて、彼女がテーブルの上に置いたのは、銀の細い指輪だった。
いくら俺でも、それがどんな意味を持った物かは解る。
「ごめんね。着けてれば良かったね。そうしたら、篤人君だってあたしの事なんて…」
そう言ってAさんは、それを左の薬指に通した。
「…結婚してるの…？」
「…Ja、でもあり、Nein、 でもある、かな」
？ どういう事？
「あたしの中では、もう終わった事だったから、これを着けていたくはなかったの」
Aさんがそれをそっとなでる。
「この間連絡が来て、日本へ帰ったら届けを出す事も決まったから、イエスでもありノーでもある」
「届けって、その、離婚届、って事？」
「そう、たった2年の短い結婚生活でした(笑)」
わざと笑って見せるAさんは、また俺に謝る。
「ほんとにごめんね？ でも、誕生日と一緒で、自分から、私結婚してますなんて言わないでしょ？」
「…ぷっ、そりゃそうだ(笑)」
「だから。だからなおの事、これを着けとけば良かったね」
「いや、だとしても、俺はきっと好きになってたと思う」
そして、きっと、別の理由で悩んだだろう。
「…聞かせてくれないの？ その、経緯とか、事情とか」
「…え？ もうこれで充分でしょ？ 7つも年上のバツイチなんて、止めた方がいいって(笑)」
「止めるかどうかは自分で決める。俺は、Aさんのスペックがもっと知りたい」
「知ったところで、」
「それでも！」
それでも俺はあなたを知りたい。
「…ずっと気になってた。どうしてそんなに寂しそうに笑うのか。どうしてドイツに来たのか。…その傷は、どうしたのか」
知りたくて仕方なかった。
「…解った。でもちょっとだけ心の準備をさせて？…コーヒー、淹れ直すね」
Aさんがキッチンへ立つ。
俺は、その後ろ姿を見ていた。
そして、さっき思わず頬に触れた自分の手を見た。
なんでこんなに好きなんだよ。
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馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね！f(^^;) (2014年1月15日 7時) (
レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね！まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。ﾋﾟｰｺｰﾄのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
星(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ（笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：馨子
| 作成日時：2013年11月30日 1時
