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《Aが語る》

篤人君が私の頬に触れた。
右手を、左の頬に伸ばしたが、少しためらって、考え直したように手の甲で右頬に触れた。
びっくりした。とても。

「…ごめん…」
「…どうしたの?」
「…Aさん、…今度ふたりで会いたい」

綺麗な顔が歪んでいる。

「だめ?」

私は軽く混乱していた。
会いたい? ふたりで?

「…それはだめでしょう、だって…」
「だって?」
「だって…」
「…あなたが好きだ。だから…」

苦しそうに私を見る篤人君は、少し苛立っているようにも見えた。

「ねえ、そんなところじゃなんだからリビングに入れば? ひとばらい、したし」

不意に姉の声がして、私たちはここが玄関だったと思い出す。

「聞こえちゃった。てか、知ってたけど」
「ヤコさん…」
「多分、気付いてないのはAだけよ?」

姉は何を言っているのだろう。
気付いてないのは私だけ?

「まあ、今、Aは自分の事で精一杯だからってのもあるけどね。ほら、A、コーヒーでも淹れて?」
「え、あ、うん」

私をキッチンへ促し、コーヒーが落ちる間、姉はそのまま篤人君と玄関で何か話していた。

カップを持ってリビングへ行くと、もう姉はいなかった。

「…何言われたの?」
「ん? …うん…。Aさんが今、ちょっと問題を抱えているのは気付いてるよねって」
「…」
「人を好きになるのを、他人が止める事は出来ないけど、軽い気持ちなら、ここまでにしてやってくれって。もう彼女が傷付くのは見たくないって」

ヤコちゃん・・・。

「俺じゃ無理だって、そう言ってんだよね、ヤコさんは。俺がAさんを傷付けるって」

篤人君の眼差しが真っ直ぐで、私は彼から目を反らした。
眩しくて見ていられない。

「Aさん? その、問題っていうのを、俺は聞かなきゃだめだと思うんだけど?」

やっと、私の頭と気持ちが落ち着いて来た。

「…あたしの事が好きだから?」
「うん」
「軽い気持ちではないと?」
「ない、と思う」
「…いつから? あたしがこっちに来るってなったから?」
「…気が付いたら? や、最初から? 解んね。でも、日本へ帰っちゃう人だって、気持ちを抑えてはいた」

なんて事だ。
私は彼より7つも年上で、しかも。

「篤人君、ちょっと待ってて」

私はこちらに来てから、ずっと外していた物を取りに、自分の部屋へ向かった。

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馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、コメントありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね!f(^^;) (2014年1月15日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね!まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、コメントありがとうございます。ピーコートのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ(笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、コメントありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:馨子 | 作成日時:2013年11月30日 1時

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