その軌跡を語るなら

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《篤人も語る》

ヤコさんちで、今夜もごちそうになっていた。
Aさんはいなかった。
ちょっと拍子抜けだ。

Aさんが、ドイツに来ると聞いて、嬉しかったけど、戸惑ったのも本当だ。
だって俺は、彼女が日本に帰るまで、その先は考えてなかったから。

でも。
彼女がこっちに住むという事は、それを考えても、先の話をしてもいいという事か。
自分を受け入れてもらえるように、努力してもいいのだろうか。



【Sub：急展開】

【 Aさんがドイツに引っ越してくる。9月に。
転勤？ みたいなもんらしい。
今、住むところを探したり、忙しくしてる。
エッセンだって。
なに、この展開。ウケるでしょ？ 麻也も気にかけてくれてたから、一応報告。 】



【Sub：ウケないよ！】

【全然ウケないから！
てか、これは行くべきだ！
好きなら走れ！
Uchi、gehen! gehen! gehen!! だよ。
後ろは任せて！
当たって砕けろ、いや、砕けるな。
・・・もし、ダメだった時は、この長い顔、じゃなくて、広い胸で泣いていいから！

とにかく、月末帰国した時に詳しくね。
あと、俺の披露宴もよろしく！】

gehen か、zurück か。
行くか、戻るか。いや、もう戻れない。
俺は負けず嫌いだし、しかも戦わずして負けるなんて、ありえないだろ、って話。

フィリップとヤコさんの馴れ初めを聞いた。

短大を出て、幼稚園への通勤の為に車を買うことになったヤコさんに、まだ、車の名前も解らない中学生だったAさんが、どこかで見掛けた、丸くて可愛い車を勧めた。
それが、VWのビートルだった。
販売店で、担当してくれたのがフィリップで、彼が言うには、二十歳のヤコさんは、

「スーパーウルトラ可愛かった」

確かに、ユリアンのアルバムにあった写真のヤコさんは、スーパーウルトラ可愛かった。
フィリップの一目惚れで、彼は車の調子を確認するのを口実に、当時ヤコさんが暮らしていた、彼女の実家へ通うことになる。

「じゃその時ビートルを買わなかったら、今、ユリアンはいないかも」

俺がそう言うと、ユリアンは笑った。

「僕、どっかにVWのロゴが付いてるかもね」

俺が当たって砕けたら、この楽しい家にも来れなくなるのか。

楽し過ぎてキリがないから、そろそろ帰ろうかと、玄関へ向かった所にAさんが帰って来た。

「あ、篤人君、もう帰るの？」
「…うん、お帰りなさい。忙しそうだね」

俺を見上げて微笑む。
やっぱ好きだわ。
思わず、その頬に触れてしまった。

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