その軌跡を語るなら

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後ろに車がいないことを確認して減速する。
ゆっくり近付いて、しばらく後ろをついて行く。
どうか、まだ気付かないで。
俺は見極めたいんだ。

でも、いつの間にか後ろについた車が、クラクションを鳴らしながら追い越して行く。
ああ、見つかってしまった。

助手席の窓を下ろした。

「お嬢さん、乗りませんか？」

振り向いたAさんの顔を見て、パーティーの時の彼女を思い出す。
俺は、なんでこのタイミングなんだって、なんで今なんだって、誰かに聞きたかった。
あの時静かにやって来たものが、今、俺の身体を射ぬいている。
ビビビって。
多分。

それは、彼女が、恥ずかしそうに、困ったように、そして、哀しそうに笑っていたから。

この人の本当の笑顔が見たい。
この人がまとっている陰りのような物を取り去りたい。

「ありがとう、助かった。ふふっ、買い物しすぎちゃって」

後部座席に荷物を置いた彼女が、助手席に乗り込む。

フワッと何かの花の香りがした。

「時間、早くない？」
「取材が一本飛んじゃって。すみません」
「ううん。おかげで助かったけど、いいのかな、助手席乗っちゃって。彼女、怒らない？」
「…いませんよ」
「えー、こんなにイケメンなのに」
「…いや、そんな。…中身ブサメンらしいし」
「ブサメン？ なにそれ、ひどい」

胸は、ドキドキと早鐘を打っている。
Aさんにバレそうで嫌だから、何かしゃべれ！

「ずいぶん買い物したんすね」
「ふふっ、誰かさんが沢山食べるからね〜」
「 ！ すみません…」
「あんなに食べるのに、そんなにほっそりしてられるって、うらやましいわ」
「Aさんこそ、細くないですか？」
「ううん、最近体重増えて来たから、ウォーキングを兼ねてあたしが買い物に来たんだけど…」
「…これじゃ意味ないっすね」
「ほんとー(笑)。 でも、助かった！ 重いし、雪まで降って来るし。もう4月の後半なのにまだ雪が降るなんて、ドイツってやっぱり寒いのね」

彼女が窓の外を見る。

「…この間は泣いたりしてごめんね。いい歳して恥ずかしいわ」
「…いや、歳なんて関係ないし。ってか、Aさんていくつなんすか？」
「ふふっ、こういう時、何歳に見える？ って聞く人いるじゃない？」

ああ、俺はそういう女、あんまり好きじゃないけど。

「あたし、そういうの好きじゃないから普通に言っちゃうんだけどね(笑)」

こういう人は好きか？
好きだ。
この人が好きか？
うん、好きだ。

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