その軌跡を語るなら

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で、結局、今私は試着室の中にいた。
これも、サポートの一環だからと、姉は服と靴を買ってくれると言う。

「シャルケはブルーだし、VWもブルーだし」

と言う姉の勝手な理由で、ブルーのワンピースを何枚か試着させられる。
だけど、姉が決めた1枚は、ブルーと言うよりは、どちらかと言うとネイビーだった。
シンプルな、切り替えのないストンとしたノースリーブの膝丈のワンピースで、これに淡いグレーのオーガンジーのストールを羽織ることにする。靴は黒のエナメル。
バッグは姉の手持ちの物を借りる事にした。

「ヤコちゃん、髪は下ろしたままでいいよね？」
「…もちろん」

私には、左頬の下辺りから首筋にかけて、5センチ位の傷がある。
姉は私の顔を見て、少し悲しそうに笑って、頷いた。

医師は、なるべく傷が残らないように、縫合しないでテープで止めるという処置をしてくれたが、さすがにまだ一月半しか経っていないので、赤い筋が目立っていた。
傷は、段々解らなくなるとは言われたが、ただ、完全には消えないだろうとも言われた。
その場に一緒にいた親友の玲子は、医師に詰め寄り、何とか綺麗に出来ないのかと、泣き崩れた。
私より玲子の方がショックを受けていた。
玲子の方が、憤っていた。

胸の辺りまである髪は、緩く巻いて、左側に持ってこよう。
髪を下ろしていれば、大分隠すことが出来るので、服とのバランスを考えると少し残念な感じだけど、仕方ない。

目の前の大きな鏡を見る。
私はどう見えているのだろう。
いくら綺麗な服を着たって、ごまかせない。
こんなひどい顔。

「なんか、美味しい物食べて帰ろうか」
「出たっ、ヤコちゃんの美味しい物！」
「あはは」

姉が、何か美味しい物、と言う時、それはお寿司を意味する。
そして、祝い事や、家族の誰かを元気付けたい時にも、実家ではお寿司を頼んだ。
最後に実家でお寿司を食べたのは、母の四十九日の時だった。
姉たちもドイツから来てくれて、まだ父も、元気に見えた。
まさか、その9ヶ月後に父をも見送る事になるなんて。
もっと、何か出来る事はなかったのか。

姉が連れて行ってくれたのは、自宅から程近い日本料理のお店。
座敷や、カウンターもあり、中に入ればここは日本かと思う程だ。
顔馴染みのようで、店主と思われる日本人夫妻に、妹だと紹介された。
ふたりで、昼間からビールを飲んで、美味しいお寿司を頂く。
もちろん、姉の奢りだ。
ありがとう、ヤコちゃん。

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