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《篤人が語る》
練習が終わって、車に乗るとユリアンからメールが来た。
今、そこまで一緒に歩いて来たのに、どうした？
遅くなってゴメンとだけ書いてある。そして写真が添付されていた。
そこには、あの日、サインをしたユニフォームを着て、笑っているAさんが写っていた。
正面を向いて、少しだけ口角をあげて微笑んでいるのと、サインが見えるように、背中越しに振り向いてピースしているのと。
Danke とだけ返した。
こんなの、いつの間に撮ったんだか。
初めてAさんを見た時も、こんな風に笑っていた。
あの時、いっそ雷にうたれていれば良かった。
そうしたら、この気持ちを認めるしかないし、ビビビって来ちゃったんだもんって、開き直れた。
掴み所のない気持ちを持て余しながらも、俺はあれから何度かAさんに連絡をして、晩めしをご馳走になっていた。
大きいユリアンを誘って行くこともあった。
彼女とヤコさんの作る飯は旨い。そしてヤコさんのうちは楽しい。でもそれだけじゃないのは間違いない。
俺は見極めたいんだろ、きっと。
自分がふたりいるようだ。
もっとAさんの事を知りたいと思う自分と、知ってしまったらもう引き返せなくなるんじゃないかと思う自分と。
このまま、この、ついたかもしれない心の火が、自然に消えるのを待つのか。
まあ、恋愛なんて、めんどくさいだけだし。
でもなあ。
この間、Aさんが泣いた。
ヤコさんは、「やっと泣いたわ」と、言った。
去年亡くなったって言ってたお父さんの事でも思い出したのか。
ずっと我慢していたの？
今日も、また晩めしを食べにヤコさんの家に向かう。
約束した時間より早くデュッセルに着いてしまったのは、入っていた取材が一本飛んだから。
どこかで時間つぶすか、と考えながら運転していたら、舗道を歩くAさんを見つけた。
抱えた荷物が重そうだ。
赤いピーコート。黒のロングブーツ。その間に見えるジーンズの細い脚。
小雪混じりの風に長い髪をなびかせて、少し背中を丸めて歩くその姿に、俺の胸は切なくなる。
俺に気付かずに、歩いて行く小さな後ろ姿に、俺の胸は苦しくなる。
何だろう、この感覚。
小さい子供に感じる愛しさに似た、でも、大人の女の人に対するこの感じ。
守ってあげたい、的な？
やだよ、俺。
だって、どうせ来月にはいなくなる人だ。
なのに、彼女の隣に駆け寄りたかった。
彼女の、そばに寄り添いたかった。
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馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね！f(^^;) (2014年1月15日 7時) (
レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね！まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。ﾋﾟｰｺｰﾄのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
星(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ（笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：馨子
| 作成日時：2013年11月30日 1時
