その軌跡を語るなら

17．7-2 ページ17

帰りの車の中で、ユリアンがAさんの事を話しだした。

『綺麗な人なのにあの傷、気になるね』
『ん？ ああ。 お前、色々聞いてたから、それも質問しちゃうんじゃないかって思ったわ』
『いや、流石にあれは聞けなかった』

今日のAさんは、髪を後ろに束ねていた。
だから、この前より傷がよく見えた。
何となくだが、刃物で切ったようにも見えて、19歳の、ある意味怖いもんなしのユリアンにも、触れてはいけない気にさせるものがあの傷にあったのは確かだ。

『でも、俺、結構頑張ったでしょ？』
『あ？ なにが？』
『ウシが色々聞けない分、俺が頑張ったって話』
『なに言ってんだか』
『いつもパス出して貰ってるから、たまには俺がアシスト』

彼女の事、気になってんでしょ？ って、俺を見ながらニヤニヤしやがる。

『5月までしかこっちにいないみたいだけど、ま、後は自分でチャンスメイクだな〜』
『はいはい、ナイスアシスト、ありがとうございます』
『ヤコちゃんが、また、ご飯食べに来ていいって言ってたから、ウシさん、頑張って！』
『そんな事、いつの間に聞いたんだよ(笑)』
『基本、基本』


家に着いたらAさんに電話しようかと思ってたけど、もう遅かったからメールにした。

【Sub：ごちそうさまでした】

【今日は、ありがとうございました。ご飯、旨かったし、すごく楽しかったです。
大きいユリアンもそう言ってました。
ヤコさんに、またご飯食べにどうぞって言われたって言ってたけど、本当ならまた行ってもいいですか？
ご迷惑でなければ、ですが。】

送信して、しばらく待ってみたけど返事は来なかった。
もう、寝ちゃったか。
俺も風呂入って寝よ。
明日は二部練だし、負けられない試合が続くし、大変だよなと思いながらも、Aさんの事を考えてる俺って、こんなキャラじゃなかったはず。

いや、とりあえず風呂だ、と立ち上がったらメールが来た！

【Sub：こちらこそありがとうございました】

【無事に帰宅されたようで安心しました。何気に車で1時間て、遠くないですか？ 大変でなければいつでもご飯食べにいらして下さい。週末の試合、ユニフォーム着てテレビで応援します。頑張って下さいね。】

これは社交辞令なの？

俺は彼女の事をもっと知りたい。
もっと、俺の事も知って欲しい。
もっと、もっとって、結局俺はどうしたいんだ？
どうせ、来月には、あの人日本へ帰るんじゃん。

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