16．7-1 ページ16
《篤人は語る》
雷にうたれた訳でもなく、ビビビって来た訳でもなかったけど、Aさんの事が気になっていた。
練習して、試合して、いつもと同じ毎日だけど、気が付くと彼女の事を考えていた。
今日、ユレと一緒に食事をご馳走になってから、ますます彼女の事が頭から離れない。
来期から大きいユリアンの背番号が10番に変わるから、と言ったら、小さいユリアンは、
「うっそ、すげーっ！ 」
と、喜んだ。
Aさんは、サッカー選手における背番号10の意味を知らず、俺が簡単に説明してあげると、ふーんと言って、ま、あんまり興味ないんだわね。
そんな話をしながらも、俺はAさんの事が気になって仕方なかった。
だから、ユレがAさんに色々聞いてくれて助かった。
ナイスアシスト。
ただ、俺を通訳にしようと、ユレがドイツ語で言ったことに、Aさんが直接答えたのには驚いた。
「えっ？ 村上さん、ドイツ語出来るの？」
俺のひっくり返った声にヤコさんは笑いながら言った。
「もしかして内田さんよりペラペラかもよ」
『ユリアン、私にもドイツ語で大丈夫だから』
『マジ？ 助かるー』
「マジでびっくりしたわ」
「内田さんに聞かれたくない話はドイツ語でするといいかも」
そう言って、ニヤッと笑ったAさんは、子供みたいだった。
「いや、俺だって聞くのは大丈夫だし」
話すのは苦手だけど。
ユリアンが聞き出したのは、Aさんは今仕事を休んでドイツに来ている事、5月位まではこっちにいる事、ヤコさんと旦那さんは大恋愛だった事、とか。
大恋愛の話も興味あるけどさ。
でも、仕事休んでドイツに来ているのはなんでなのか、やっぱりその傷のせいなのか、知りたかったけど、だけど聞けなかった。
『ムラカモサン』
『ユリアン、ムラカミって言い難かったら、Aでいいわよ？』
『じゃあ、そうする！』
えー、俺も名前で呼びたい。
「村上さん、俺も。俺も名前で呼んでいい？」
小さく笑って、Aさんは頷いた。
「じゃあ、あたしも篤人君て？」
やべっ、ちょっと、なんか嬉しいわ。
『そんなら、あたしの事もヤコちゃんって呼んで！』
みんなが笑った。
Aさんも笑ってた。
俺は、その横顔を見ていた。
目が離せなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 373人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「芸能人」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
馨子(プロフ) - リオさん» リオ様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。仰る通り、篤人さんは何だか悲恋の匂いがしてしまうのです。時折見せる、物憂げな表情のせいかしらと思います。これからも、楽しんで頂けるよう、更新頑張りますね！f(^^;) (2014年1月15日 7時) (
レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
リオ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます、気付けば一気に読んでしまっていました。難しい恋、切ない恋、大人な恋……どうして彼はこんなにも似合うのでしょうね！まだまだ前途は多難な様ですが、これからも楽しみにしております(*^^*) (2014年1月15日 3時) (レス) id: 28f69f1789 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 星さん» 星様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。ﾋﾟｰｺｰﾄのくだりは私も書きながら少し切なくなりました(笑)。自画自賛ですね…。読んで下さる方の妄想をいかに引き出すか、余り細かく描写しても良くないですし…。続きも楽しんで頂けるよう、頑張りますね。 (2014年1月12日 7時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
星(プロフ) - 初めまして。もしかしたらこんな切ない想いをこんな恋をしているのかも…と妄想しつつ（笑)一気に読んでしまいました。内田くんがヒロインの赤いピーコートの後ろ姿を見て、切なくなる想いにきゅうとなりました…。素敵な大人のお話ですね。続き楽しみにしています。 (2014年1月12日 2時) (レス) id: 59223def46 (このIDを非表示/違反報告)
馨子(プロフ) - 空さん» 空様、ｺﾒﾝﾄありがとうございます。逆風、吹いてますが、見守ってやって下さいませ。これからも楽しんで頂けるよう、頑張ります(*^^*) (2014年1月9日 22時) (レス) id: b44ca2bc26 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：馨子
| 作成日時：2013年11月30日 1時
