その軌跡を語るなら

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「VWはシャルケのスポンサーもやってるんでしょ？ そんで、フィルがうっかりシャルケの選手が来るらしいって言っちゃったもんだから」
「あー、大きいユリアンも？」

小さいユリアンを見る。

「来るかも知れないじゃん！」
「と言う訳なのよ」

VWはフィリップが勤めている会社で、休職中ではあるが私の勤務先でもある。
フィリップはここ、デュッセルドルフの店舗の店長をしていて、私は日本のVWの広報部に籍を置いていた。

「ヤコちゃんと行けばいいじゃん」
「私、その日市民センターの日だから」

姉は月に何度か、市民センターが主催している、夕方からの社会人向けの日本語講座で、講師のボランティアをしている。
この人は、昔から人に物を教えるのが好きだったし、上手だった。ドイツに来るまでは幼稚園教諭 をしていた。

「ねぇA？ 気持ちは解るけど、気分転換になるよ？ ここなら知ってる人に会うこともないし」
「…だけど、私、パーティーに着て行くような服、持って来てないし」
「買えばいいじゃん！ あんた、服なんてしばらく買ってないでしょ？」

気のせいか、姉は何だか楽しそうだ。

「明日、一緒に買いに行こ？」
「ヤコちゃん…」
「決まり！？ A、行ってくれるの？」

ユリアンの目が、キラキラと輝いている。
んーもー、この親子強引！

「じゃあ、みんなにはお世話になってるからそのお礼ね。」
「やった！ A！ 愛してる！！」

ユリアンが私を押し倒す勢いで抱きついて来る。

小さかった頃の彼を思い出す。
本当に可愛かった、ユリアン。
よく姉と、可愛い所を覚えておいて、反抗期になった彼が、うっせ、ばばぁ、とか言った時に思い出そう、と話した。
そして、耐えよう、と。
でも、反抗期らしい反抗もなく、彼は、素直に育って、今も可愛いままだ。

「ユリアン、重いから。どいて」
「あはは」
「てか、そもそもそのパーティーとやらに私たちが行っていい訳？」

姉に尋ねれば、それは大丈夫と言う。

「多分、フィルはあんたに行って欲しくてこの話を持ってきたのよ」
「…そっか…。なんか、ごめんね、心配かけて…」
「いいって」

姉も義兄も、言葉では多くを語らない。
でも、その優しさは伝わる。

「ヤコちゃん、フィリップがこのままこっちで仕事しないかって言ってくれたんだけど」
「ああ、うん。でも、決めるのはAだから。あんたの好きなようにしなさい」
「…うん」
「私たちはAが決めた事をサポートするだけ」

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