その軌跡を語るなら

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Die Zeit ist der beste Arzt
ーーー 時間は最良の医者である

《Aは語る》

『不思議な物で、国や言語が異なっても、同じ様な意味のことわざがある』

思い出したのは、大学の時のドイツ人教授の言葉。
思い出させたのは、“小さいユリアン”。
彼が宿題でことわざを調べていたから。
ドイツ語と日本語で、同じ様な意味のことわざを調べなさい。

「ねぇA、もっと教えてよ」

ノートを覗くと、

Die Zeit ist der beste Arzt
時間は最良の医者、月日が薬
Ende gut, alles gut.
終わりよければすべてよし
Eile mit Weile.
急がば回れ
Zeit ist Geld.
時は金なり
Taten statt Worte
不言実行

書いてあるのは、全部私が言ったものばかり。

「…自分で調べなきゃ勉強になんないじゃない」
「うーん」

高校で、日本語の授業を選択している甥のユリアンは、ネット検索禁止と条件の付いたその宿題に手を焼いていた。
日本とドイツのハーフだし、しかも家の中では日本語オンリーだから、話す事には不自由していないようだが、さすがにことわざとなると、難しいようだ。

夕食後のリビングで、洗い物を済ませた私は、ユリアンの相手をしながらコーヒーを飲んでいた。
姉の美也子は入浴中、義兄のフィリップはまだ帰宅していない。

「A、片付けありがとうね」
「ヤコちゃん、ユリアン全然自分で調べないよ？」

バスルームから出て来た姉に告げ口をする。

「Mein Kleiner Julian ？」

姉が、“私の小さなユリアン”と、もう自分より背の高い息子にドイツ語で呼び掛けるのは、ここ何年かは叱る時だって、義兄が言っていた。
ただ、最近は区別するために、“小さいユリアン”と、“大きいユリアン”って呼ぶ事も多くなった、とも。
“小さいユリアン”は、今ここにいるユリアンで、“大きいユリアン”は、シャルケのユリアン・ドラクスラーの事だ。
最近、ユリアンがユリアンのファンになったから、こんな呼び方になった。

「宿題は自分でするもの。じゃないと、あれ、Aに頼んであげないから」
「…！ やだ！ それとこれとは別でしょう！？」
「あれって？」

なんだろう。

「ほら、じゃあ自分で頼んだら？」
「うん。あのねA、来週の金曜にパーティーがあるんだけど、僕と一緒に行ってくれない？」
「パーティー！？」

なにそれ。
姉の顔を見る。

「VWが、スポンサーをしている企業を相手にパーティーをするんだって」

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