【Fischer's】ファインダー越しの君と私 (ページ5)

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すると彼は、ふいにこちらへ歩み寄ってくると、砂耶佳のカメラをひょいと持ち上げた。

「これ、撮りたかったんだよね？」

と、目の前にあったツツジの花を指さす。

こくん、と頷き、
何してるんだろう…と思いながら彼の手元を見上げる。

慣れた手つきでカメラのレンズのダイヤルを回して行くその手に、砂耶佳は危うく見とれそうになってしまう。

そしてマサイは、ツツジの花にカメラを近づけると、パチリ、と1枚撮影した。

マサイは無言で砂耶佳にカメラを手渡すと、「見てみな」とでも言わんばかりに顎で液晶画面を指し示す。

マサイから受け取ったカメラの画面を見ると、そこには砂耶佳が撮ったものとは大違いのツツジの姿があった。

『こ、これ…！めちゃくちゃ綺麗に撮れてる…どうやってこんな綺麗に撮れるの？？』

すると彼はニヤリと微笑み、

「砂耶佳ちゃんさ、写真撮る時に少し明るさが足りなかったり、動いてるものを撮る時のシャッタースピードの調節だったり、影にする部分はしっかり影にしたりするって所がまだできてないみたいだから、そこを気をつけるといいかもね。」

あ、砂耶佳ちゃんが今まで撮ったやつ、ちょっと見させてもらったよ。

と、最後に一言彼は付け足して言った。

さっきの短時間でそんなに細かいところまで見れるなんて、やっぱりプロは違うなぁ…。
と、同時に、これまでのめちゃくちゃ下手っぴな写真を見られてしまったと思うと、なんだかちょっと恥ずかしかった。

『教えてくれてありがとう…。言われたこと、これから気をつけてみる！』

「うん、砂耶佳ちゃんならできるから頑張れ。」

マサイはカメラを仕舞いながら微笑んで言った。

じゃ、俺帰るわ。

『え、あっ……』

砂耶佳が『待って』と声をかける間もなく、彼は公園から出ていってしまった。
今日のお礼をする為の連絡先だって、聞けてない。

『マサイ…』

そんな彼を呼ぶ砂耶佳の声は、ひゅぅっとひとつ吹いた風にかき消された。

今の…何だったんだろ。

気づけば、もう辺りは暗くなってきている。

いつの間に…

私も…そろそろ帰らなきゃ。

帰り道、砂耶佳の頭の中は、彼のことでいっぱいだった。