2.もしもあの時2人が出会っていなければ ページ25
「はあっ…はあっ…！」
月明かり照らすイギリスの住宅街。
昼間は大勢の人間で賑わっているその場所は、今はシーンと静まり返っている。
そんな街を吸血鬼が息を乱して走る。背中には鉄の玉が数弾撃ち込まれ、腹わたには刺し傷もある。重症だった。
(向き合えねー…！)
「ごふっ…！」
口から血を吹き出し、息を整えようと足を止めるとすぐに近づいてくる大勢の足音。
「いたぞ！」
「弱ってる！トドメをさすんだっ！！」
「くっ…！」
吸血鬼は石畳の上を走り出す。
彼は真祖最強と謳われるほどの男であった。そんな最強の男が人間相手にここまで重症を負ったのには訳がある。
彼の今の主人は小さなギャングをまとめ上げるボス。主人に指示され、彼は毎日毎日人を殺し続ける兵器となった。
そんな彼は今日も仕事を受け、数人の主人の部下を連れて敵のアジトへと向かった。いつものように、手っ取り早く仕事を終わらせて帰るはずだった……が、今日はいつもと違った。バレないように忍び込んだ瞬間、取り囲まれ、全方位から銃弾を浴びた。どうやら敵に情報が漏れていたらしい。背中全体を貫かれるも、不死の吸血鬼は死なない。一緒にいた部下は一瞬で原型がわからなくなるほど蜂の巣にされ、彼はすぐに逃げ出した。
逃げる途中にも道を阻まれ、腹を刺され、片腕をやられ……彼は命からがら逃げていた。
(やべぇ…！からだいてーし、いきもしにくい……)
その時、左足を銃弾が貫く。吸血鬼はそのまま石畳の上に倒れた。
「か、はあっ…！くっそ……」
懸命に立ち上がろうとするも、片足に力が入らない。そんなことをしているうちに、追手に取り囲まれた。
「やっと捕まえたぞ！この化け物め！！」
「手こずらせやがって…！どんだけ頑丈なんだ」
「吸血鬼は日光に弱いらしいから、外に吊るしときましょうぜ」
追手がゲラゲラと弱った吸血鬼を嘲笑う。吸血鬼はゆっくりと起き上がると、鋭く睨みつけた。
「オマエら、メンドクセーから…………シネよ…！」
「あ？……がはっ！？」
取り囲んでいた追手たちは、一瞬にして倒れる。目にも留まらぬ速さで、全員の心臓を鉤爪で貫いたのだ。
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作者名：星歌 | 作成日時：2018年5月5日 21時
