クロと彼女～ifの物語～ (ページ21)

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1. ～不幸な吸血鬼～ページ21

「キャアアアーッ！！」

彼女の悲鳴が響き渡る。

予想通り、高さは20メートルほど。まともに落ちればほぼ死が待っているだろう。しかも最悪なことに10メートル程のところに突き出た大岩があった。先に投げ出された犬たちが数匹、そこに激突して絶命している。

「Aっ…！」

クロは彼女を心配したが、幸いなことに彼女の位置的には大岩には当たらない。しかし、そんなものは死が先に来るか後に来るかの違いだけだ。
クロがどうにか彼女に近づけないかと必死に考えた。

(人間の姿にさえなればっ…)

クロがそう願った時、人の姿に戻った。先ほどの大岩で影ができたのだ。

(これでオレが庇って滝底に落ちればっ…)

幸いなことに自分は不死身の吸血鬼。落ちても死ぬことはない。彼女を庇ってやることができる。

「Aっ！！」

クロは彼女に向かって手を伸ばす。彼女もそれに気づき手を伸ばした。あと数センチで届く。そう思った矢先、クロの伸ばした手は肉球のついた猫の手へと変化した。大岩の影はもう、彼を日光から守ってはいなかった。

「クロ……」

悲痛な表情の彼女は滝つぼへと消えた。そしてそのままクロも滝つぼへと打ち付けられる。

(ああ、やっぱり……)

吸血鬼なんて、不幸だ。
岩に頭を打ち付ける直前、そんなことをクロは思うのであった。