1. 〜一緒に行こう〜 ページ19
「クロ……」
「A…」
お互いに名前を呼び合い、愛を確かめ合う。祝福するように木漏れ日が2人を照らした。
ーーポンっ
その瞬間、猫の姿になるクロ。
「あ、ああ！お日様が出てきちゃったね」
気恥ずかしさを誤魔化すように笑う彼女。流石にこの時ばかりは猫になる己の体を呪うクロであった。
「そろそろ移動しよっか」
「どこに行くんだ？」
「どこでも。一緒に世界を見に行こう、クロ」
クロを抱き上げ、立ち上がる彼女。期待を含んだその瞳にはもう涙は滲んでいなかった。
(Aと一緒なら、一度見た景色もきっと違うものに見えるんだろうな…)
クロもそう思いながら安心して彼女の腕に抱かれる。その時だった。彼女がクロから手を離したのは。
「…っ！ごほっ！ごほっ！」
彼女が突然咳き込みしゃがみ込む。地に降り立ったクロは不安げに彼女の方を振り返る。
「A…」
「………大丈夫、ちょっとむせちゃっただけ」
彼女は一瞬顔色を曇らせてが、すぐに心配する彼に笑顔を向けた。クロがそれに安心して前に視線を向けた時だった。
「グルルルルル…」
低い唸り声がした。
クロは声をした方に目を向ける。よく見ると、木裏から数匹の獣がこちらの様子を伺っていた。
森に住む、野犬だった。
「クロ、どうしたの？」
「……れ…」
「え？」
「走れ！！」
クロの叫びと共に野犬が木裏から飛び出して向かってくる。くっぱり空いた口からはドバドバと唾液が溢れ出ていた。
事を理解した彼女はクロを抱えて慌てて川沿いを走り出す。
森には腹を空かした野犬が多く住んでいることがあった。人間たちに町から追い出され、路頭に迷った犬たちが集団で狩りをするのだ。それはもはや狼のようであったという。
「とにかく走れ！もうちょっとしたら深い川があるはずだ！」
クロは小川の先に複数の川の合流地があると判断した。すぐ近場にも小川が流れている事を見ていたからだ。
彼女は全力で走りながら背後を振り返る。野犬がすぐそこまで迫っていた。
「クロっ…」
「諦めんな…！」
屋敷住まいだった彼女が森を走り回り野犬を振り切るほどの体力はない。クロは必死に周りを見ながら、人の姿になれそうな影を探す。すると、少し太い木に大きな影ができているのを見つけた。
「先に行け！」
クロは彼女の腕から抜け出し、木陰に入って人の姿に戻る。すぐさま鉤爪で彼女を追いかける野犬を2匹引き裂いた。
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作者名：星歌 | 作成日時：2018年5月5日 21時
