1. 〜吸血〜 ページ16
クロは小川のほとりまでくると彼女を岩場に寝かせ、水を汲んで額の血を拭おうとした。しかし、彼女はそれを手で遮る。その遮る手の弱々しさに、クロは彼女が死ぬのではないかと不安になった。
「A…血を洗い流さねーと……手当てもしてやりたいけど、オレがいるからもう村には…」
「大丈夫だよ。クロ、お腹すいてない?」
場違いな質問にクロが不思議がっていると、彼女は至って穏やかにこう言った。
「私の血、飲んでいいよ…」
「はっ……?」
「クロ、ずっと飲んでなかったから…。お腹空いてるんじゃないかなって」
クロは彼女の誘いに戸惑った。
正直、 腹は空いていない。だが彼女に言われて血の存在を意識してしまうと、吸血鬼の本能からか……急に血が欲しくなった。
いや、彼女の血の味を確かめてみたかった。
「……気持ち悪く、ねーのかよ…」
「クロだもん。気持ち悪くなんてないよ」
ほら、来てーー彼女に手を引かれ、ゆっくりと額へと唇を近づける。すぐ近くまで来ると、鼻先に独特の生々しい香りが漂い、欲が剥き出しそうだった。
「嫌になったら、言えよ…」
クロは慎重に彼女の血を舐めた。
甘い…今まで感じたことのないくらいの甘さ。どんなケーキよりも、どんなチョコレートよりも、どんな人間の血よりも甘く甘く感じた。
この甘さは…彼女の血が数万分の一の確率で出会える名血だからなのか。それとも、彼女の吸血鬼に対する想いが血を甘くさせているのか。
「んっ……くすぐったいよ…」
くすぐったさから逃げようとする彼女の体を抱きしめ、頭部を固定する。吸血鬼の強いからによって、少女はピクリとも動くことができなかった。
吸血鬼は彼女の血を夢中で吸った。牙を立てないようにして、唇で優しくキスするように。
吸血鬼は血の味がしなくなるまで額を舐め続けた。
ーーゴクリッ…
最後の一滴が喉を通り、体内の深いところへ溶けていく。伏し目がちに彼女を見ると、少し頬を染めながら微笑んでいた。
「何だよ…」
「ふふっ、だってクロ…とっても夢中に吸うんだもん。やっぱりお腹空いてたの?」
「いや……」
クロは彼女から離れると、口元についた血を拭った。
「どんな味だった?」
「………うまかった」
「よかったぁ」
彼女はクロの頰に向かって手を伸ばす。しかし、クロはそれから避けるように身を引いた。
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作者名:星歌 | 作成日時:2018年5月5日 21時