第2話 ページ19
電車独特の揺れに揺られながら、真希はぼんやりと少しだけ隣でスマホをいじっているAを見た。
思い出されるのは、やはり、先程から同じ光景であった。
百足、鼠、その他たくさんの生き物の死骸がそこには無惨にも散らばっていた。それぞれどこか欠損していた。まるで、喰われたのかの様に。
そんな中にAは足を踏み入れる。
真希は呪具を構えていた。しかし、その中には入らなかった。
ピチャピチャと、彼女が歩く度に血か、体液か、それはわからないが液体が音を立てた。そして、Aは、たった一匹だけ生き残った物に近づいた。
その物は、結界が解かれても微動だにしなかった。
ボサボサの髪、落ちくぼんだ眼、自分のものか返りついたものか――――血がついている。喰い合いに勝利したヨジババは、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
「ねぇ」Aがヨジババに話しかけた。
ピクリ、とヨジババが揺れる。
「あたしと」
来てくれない? 来ない? 行こう? ――――その先は思い出せなかった。しかし、Aはヨジババに、仮想怨霊に手を差し伸べたのだ。
小柄なヨジババは、同じく小柄なAよりもずっと小さかった。
だからだろうか。
その渇いた手を、差し出された手に乗せるその瞬間、真希にはヨジババがとても幼い子供に見えたのだった。
Aは残った死骸を、近くの森に埋めた。手を、合わせていた。
「かわいそうなことしたなぁ」Aが呟いた。
「そうだな」真希もそれに同情した。
仮想怨霊を倒すためとはいえ、多くの命を奪ったのだ。
「あんなに可愛かったのに」
思わず、と言った風にAは呟いた。言った本人は気がついていない。言った事にも、頬が高揚している事にも。
真希は口を噤む。これには何も言えなかった。
ガタンガタンと一定のリズムに割り込むように、放送が流れた。どうやら次が自分達が降りるべき駅のようだった。
しかし目を開けるのもなんだったので真希はそのまま瞑っていた。
「真希ぃ、降りるよぉ」
そうすれば、頬を突かれた。Aがしたのだろう。
やめろ、と手で払えば、なんだ、起きてたんだ。と返された。
あ、という声が耳に入った。
Aの口から思わず出たものの様だった。
「棘でもいたか」
そこでやっと目を開けて、Aの方を見れば、彼女は真っ赤になった頬で、黙って首肯した。
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しゆ - 続編が出ました。更新速度は遅いですが、よろしくお願いいたします。 (2021年3月18日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - 山田憂さん» コメント、そして温かいお言葉……ありがとうございます! これから寒くなる季節、山田憂さんも体調には気を付けてください! (2020年11月3日 16時) (レス) id: 0614066502 (このIDを非表示/違反報告)
山田憂 - 夢主とキャラクターの細やかな心情が刺さりました…。体調に気をつけてお過ごし下さい。応援してます! (2020年11月2日 13時) (レス) id: 2e6603876c (このIDを非表示/違反報告)
しゆ - チベットスナギツネさん» 神作!? ありがとうございます! 嬉しいです!! コメントもありがとうございました! (2020年10月30日 21時) (レス) id: 311275af3f (このIDを非表示/違反報告)
チベットスナギツネ - 神作・・・言いたいことは、それだけです。( ´∀`)bグッ! (2020年10月29日 23時) (レス) id: 4fb9137dc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しゆ | 作成日時:2020年10月28日 22時