もう、忘れよう。

161歩目 ページ32

釘「私、私ね…Aのことが心配なの。」


心配……？


釘「Aは優しすぎるの。私だったら絶対愛とかいう奴とか、シブヤの奴らを許せない。」


そんなの、私だってまだ完全に許せてないよ。


釘｢前、詳しくは聞いてないけど酷いことを沢山されたのに…。
口をきくところとか、目を合わせてちゃんと話すところとか…。
優しいわ、優しすぎるくらいよ。｣


野薔薇ちゃんの腕の力がグッと強くなる。


苦しいけど、全然嫌じゃなくて。


釘｢その有栖川とかいう男から2人きりになりたいって言ったのもそう。
少なくとも私だったら行かないわ。
行ったんでしょ？
その男がどれだけAのことを好きでいたとしてもAに酷いことを言ったのも事実でしょう。｣


涙が何故か出てくる。


なんで泣いてるのか、分からない。


釘｢Aが辛い思いなんてしなくてもいいの。
今まで散々頑張ったんだから。
今からは、これからは存分に幸せになればいいのよ。｣



泣かない泣かない、と言いながらトントンと背中を叩いてくれる。


釘｢Aに冷たくなれ、とは言わない。
私だって、優しいAが大好きだしね。
でも、自分のことを大切にして。
自分の想いを大切にして。
Aが他人に優しいように自分にも優しくして。｣


野薔薇ちゃんの真剣な、だけど優しい瞳が私を捉える。


釘｢Aが許すなら許せばいい。

だけど私がAの代わりに許さない。｣


私の親友にそんな思いさせたんだから、と付け足す。


貴｢野薔薇ちゃん…ありがとう。｣


釘｢バカね…。親友でしょ。｣


私の涙を彼女の袖で拭いてくれる。


汚れちゃうよ、そう言おうと思ったけど。


釘｢A……。私、思えば貴女が何をされたか何も知らないわ。教えて？ね？｣


知らず知らずのうちにうん、と頷いていた。


釘｢さぁー！今日は私とAのお泊まりよ。私の部屋に来る？｣


嬉々として私はいいの？と聞き返していた。

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