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不「本当はさ、」
本当のことを言うのを躊躇ってるのが声の震えや影を落とした瞳から見て取れる。
能力を使えば強制的に言わせることもできるけどそんなことをするのは不破さんに申し訳ないし、何よりこんな時にだけ能力に頼るのは嫌だっていう意地がある。
でもなんて声を掛けるのが正解かもわからないし、不破さんの手に自分の手を重ねる。ゆっくりで大丈夫っていうのを、少しでも伝えるために。
私の考えが伝わったのか、不破さんはゆっくりと口を開いて、「本当は……全部自分のためで……」なんて今にも消えそうなくらい小さな声で話し始めた。
不「まゆも明那も、周りの人間も、俺が悪いとは一言も言ってない。でも俺が中途半端に遊んだせいで喧嘩になっちゃったって、ずっとモヤモヤしたものが頭にこびりついてる。だから今度はそうならんように……、みたいな、めっちゃかっこ悪いし最低な理由。」
「かっこ悪くなんてないですよ。」
不「幸せのためとかきれいごと並べて、本当は自分を守るための、自分のために死ぬ気で研究して、薬まで作って。辛くなって1人でいたくないから女の子と遊んだりして、」
「みんな自分のために生きてるから不破さんのしてることは普通ですよ。私だって自分が傷付かないために行動してるし。」
不破さんの目をじっと見つめながら「かっこ悪くも、最低でもないですよ。」なんて言うと不破さんは目を見開く。そして、その瞳からポタポタと涙が零れ落ちて床を濡らし始めた。
ゆっくりと手を伸ばして今度は私が不破さんを抱き締めて背中を撫でる。
私と1歳しか変わらない子供なのに自分のせいで意識不明の人間を生み出して、ずっと自分を責め続けて、偽物の笑顔でそれを隠して。大きな重荷を抱えたまま生きてきたのがどれだけ辛かったのか私には分からない。
泣いてしまった私を慰めたり、過去を探られても怒らずに注意するだけだったり。不破さんが優しい人だってことは分かってる。
だからこそ、今はこうしなきゃいけないって感じた。
不「研究のために女の子の好意だって利用した俺のことクズって思わん?」
「思いませんよ。」
不「嫌いになったりせん?」
「大丈夫、嫌いになったりしませんから。」
不破さんは力の入っていなかった手を私の背中に回して子供みたいに泣き始めた。
今まで隠し通してた本音を吐き出して、辛かった想いが溢れてるのが分かって。不破さんが泣き止むまで何も言わずに優しく背中を撫で続けた。
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作者名:もも | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/Momo_UxxU_
作成日時:2023年1月7日 21時