8.会いたかった ページ8
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Chifuyu Matsuno side
「一虎くん、」
「何?」
「あの……Aの今の家、どこか知ってますか?」
「知ってるけど、聞いてどうするつもり?」
「会いに行きます。拒絶されるかもしれねぇけど、このままじゃ俺……絶対後悔すると思うんです。」
「………分かったよ。」
「頑張れよ、千冬。」
「はい!!」
今日は学校があった場地さんがAと偶然会って、俺の話をしたと聞いたのはつい数時間前のことだった。あいつは俺に嫌われたと思っていると、仲直り出来るものならしたいと言っていたと。
そんな話を聞いてじっとしていられるわけもなく、仕事を終えて、店を閉めた後、帰ろうとする一虎くんを引き止めてAの家を聞いた。前住んでた場所よりずっと遠い。俺は、家にも帰らずに紙に書いてある住所の最寄りへ向かった。
駅から暫く歩くと、明らかに男が女を誘ってる声が聞こえてきて。その女の声は、この間一虎くんが話していた電話越しの声と一致していた。
「!…………A、」
この距離でそんな小さな声が聞こえるはずもなく、女は諦めたかのように男へついて行こうとしていた。その横顔は昔のような弾けた笑顔ではなく、寂しそうで、胸が苦しくなった。
俺はその後ろ姿を追いかけ、男の腕を力の限り掴んだ。
『なんであんたがここにいんのよ、千冬。』
「一虎くんにAの住所聞いた。勝手にごめん。駅から歩いてたらお前が見えた。」
『は……?なんでそんなこと………』
「お前に会いたかったから。」
『っ………!』
Aの顔を間近で見た瞬間、息が止まるかと思った。確かに昔から容姿端麗ではあったが、あの頃とは一変、色っぽく、遥かに可愛くなっていた。他の男に渡したくなんてなかった。好き、その想いが一気に溢れてくる感覚がした。
『…………ウチ、来る?』
泣き止んだAがそう言って、流れで俺は一人暮らしの元カノの家へ上がり込んでしまった。
『お茶でいい?』
「あっ、おう……さんきゅ、」
『何緊張してんの、女の家上がるのなんて初めてじゃないでしょ。』
初めてだよ!!!!
Aの家にはいつも伯母さんがいたから気まずいっつーことで、毎回俺ん家来てたし。歴代の彼女はこいつ一人なワケだから、女の家なんて本当に一度も行ったことがない。ましてや忘れられなかった元カノの家だぞ、緊張するに決まってんだろ。
そんな情けねぇこと言えるはずもなく、曖昧な返事しか出来なかった。
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作者名:ゆ | 作成日時:2023年9月29日 21時