11.好き ページ11
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千冬を家に入れた日、連絡先を交換して別れた。
翌日には彼からメッセージが届いて、嬉しくなった私は次の予定を立ててしまったのだった。
千冬仕事終わりでよかったら空いてる。
千冬駅前待ち合わせでいい?
こんなので喜ぶなんて、学生に戻った気分だ。
ダメだ………頻繁に会ってたらきっと、友達の関係だけじゃ満足出来なくなる。それ以上の関係を求めたくなる。でも私に千冬と付き合う権利なんてない。仕事上、枕は何度もしてきたし、私は汚れた人間。千冬と釣り合うわけがない。
「A!」
『……千冬、』
「ごめん待たせたか?手、すげぇ冷えてる。」
『っ………!』
7年越しの千冬はすごくかっこよくなっていて、ナチュラルに手を繋いでくる感じが大人の余裕を感じさせた。千冬と別れて以降、何度か付き合ってみた人はいたけれど、本気で好きになることはなかった。誰と行為をしたって気持ち悪いだけだったのに、千冬に触れられるだけでこんなにドキドキするなんて。
あぁもう私は戻れない。再会してしまったのがダメだったんだ。千冬のことがどうしようもなく好き。隠せない。
だけど─────
『だ、大丈夫だから。』
「そっか。どうする、飯食いに行く?」
『ん、そうね。』
それから、私は千冬がいつも一虎くんや圭介と一緒に来ているという行きつけの居酒屋に連れて行ってもらった。そこは個室だったり、シャレた雰囲気で、料理やお酒も美味しくて、私も気に入ってしまった。
「A、俺の気持ち気付いてるだろ?」
『………何のこと?』
「この間は言わせてすらくれなかったけど、やっぱ言わなきゃ気済まねぇから言うわ。」
『ま、まって、千冬、』
「俺、Aのことが好き。別れたあの日からずっと一度も忘れたことなんかなかった。振られても諦められねぇ。」
分かっていた、分かっていたけど言って欲しくなかった。私にその気持ちに応える権利はないんだよ。
でも………同じ気持ちだから、辛い。私だって一緒なのよ。千冬を忘れた日なんてなかったしずっと好きだった。だけど、こんな汚れた私があなたの隣にいていいわけがないから。
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作者名:ゆ | 作成日時:2023年9月29日 21時