能面執事２【紫】 (ページ20)

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70. 幸福と悲愴ページ20

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「ほんまですか…？」

「うん、…好き。」

1度言ってしまうと止められないくらい簡単に出てくる言葉。

体を離すと、泣いてぐしゃぐしゃの私の顔を見て

濱田は優しく微笑んだ。

「泣かんといてください。

…我慢出来ひんくなるから。」

「それ、」

「え？」

「敬語、やだ。」

困ったような顔を見せて濱田は、

「A。」

そう呼んで、また抱きしめた。

「…崇裕。」

呼び返すとよりいっそう力強く抱きしめる。

「……俺、ほんま今、世界で一番幸せ者です。

…それと同時に、悲しいです。」

なんで？、なんて愚問だ。

わかってる。

こうして想いが通じたとしても、

明日にはお互いに

別の人の元へと帰らなくちゃならないんだ。

思い出すと苦しくなって、崇裕の胸元に顔をうずめて言った。

「……いいよ、」

「、え？」

体を離して、崇裕の目を見て言う。

「我慢、しなくていいよ。」

「……っ、」

「崇裕、……っわ！」

手をぎゅっと握って、ダブルベッドくらいある

ふかふかのソファに押し倒される。

「A、

明日バージンロード歩かれへんなぁ？」

ふと目が合えば2人笑いあって、

崇裕と私は唇を重ねた。

何度も何度も。

真っ白で穢れのないドレスなんか、脱いで。

真っ黒で縛られた燕尾服なんか、脱いで。

お互いを確かめ合うように、強く感じるように。

…永遠に今日を忘れないように。

逃げたりなんかしない。

全て受け入れて、私たちは生きてきた。

だけど、今日だけは違った。