能面執事２【紫】 (ページ22)

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72. 悲しくないと苦しくないページ22

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結婚式当日。

濱田のジャケットをぼんやりと見つめていたら

いつの間にか夜は明けていた。

屋敷も皆、朝から忙しそう。

でも、私とすれ違う度に眉を下げるのはやめて欲しい。

私は悲しい顔なんかしてるつもりはない。

苦しくもないし。

だって、昨日の夢をずっと抱いて生きてくんだから。

私はひとりじゃない。

「、A様…？」

「ん、何？」

式場へ向かう車の中、おずおずと訊ねる重岡の声に、

初めて自分でつけたシートベルトをいじりながら答える。

「ほんまに、ええの？」

前を向いたまま言った言葉は、関西弁だった。

…言わないで欲しかった。

決意が揺らぎそうだから。

「…何の話？」

だからしらを切ることにした。

「…や、……やっぱいいっすわ」

そしたら優しい重岡は触れないでいてくれるでしょ？

式場に着いても、まだ重岡が心配そうに見つめてくる。

神山も、お兄ちゃんも照史も…そんな顔してたな。

「ふがっ」

重岡のほっぺを両手で潰す。

「あのね、…いいから。私は大丈夫。

今日は花嫁の前でそんな顔しないで。」

いい？そう聞いたら、腑に落ちてはなさそうだけど

はい。と頷いた。