漂流 (黄) (ページ12)

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ランチを食べて、会社への帰り道。
サチと、午後から控えてる仕事の話をしたりして、少し注意散漫になっていたのかもしれない。

「いてっ、」
「あっ、」

人にぶつかってしまった。
その拍子に、携帯も落としたみたいで。

「すいません、大丈夫ですか？」
「俺は大丈夫ですよ、それよりほら携帯、落としてますよ」
「…あっ、すいません、ありがとうございます」

そう言って受け取ろうとすると、何故か男の人は私の携帯のストラップをまじまじと見つめだした。

「…あのー…？」
「…ダイオウグソクムシや」

懐かしい声、関西弁。帽子とマスクはしていても、直ぐに誰だかわかってしまう自分が少し嫌だった。

「…なぁ、Aやろ」
「…え、うそ」

うそ。え、どうしよう。
なんでわかったの。いや、それより。
もし誰かに見られていて、それが彼のファンの子だったりしたら。大変なことだ。

「携帯ありがとうございました！！失礼しまーす！！！」
「え、ちょっと！？」

咄嗟に携帯を彼の手から奪い取って、私は全速力で走って逃げた。

じゅんちゃん、まさか会うなんて思ってなかった。

今日はついてない日だ。
いつもと違うことをしたら、いつもと違う出来事が起こってしまった。
上司の言うことなんて気にせずに、ほぼノーメイクで出社していれば、こんなことにはならなかったのに。