蝉の聲に溺れる【HQ】 (ページ27)

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わるもの。27 ページ27

午後の練習に行くともうみんな集まっていた。

「マネージャーが遅く着ていいと思ってるの？」

遅刻させるために、嘘をつかれたのかもしれない。

「ごめんね…午後からって聞いてたから」

申し訳なさそうに謝ると、岩泉の視線に気づく。

あんなに怒っていて、怯えていたのに、次は同情？

お昼を食べに行った部員やマネージャー。

体育館はどこか寂しげだった。

やりっぱなしで行きやがったし。

コートの整備をしていると、目の前に岩泉が現れた。

「…お昼ご飯、食べに行かないの？」

いつもの調子で、優しく笑う。

「お前、いつも猫被ってたのか」

確かに、あってはいる。

「もうちょっとオブラートに包もうよ」

私は作業する手を止め、落ちているボールを撫でる。

「…好きでやってるわけじゃないし…気づいたら…どうして」

もっと昔は…そう、中学までは。

自分だって純粋無垢な、女の子だった。

「バラされたくない秘密があんのか」

このボールに触れることを拒んでいた。

秘密、なんてない。

「なに？こんな意地の悪い性格のやつに同情するつもり？」

「ちげぇ」

その瞳は、まっすぐ私を見ていた。

「俺は…お前の本当を知りたい」

本当？なにそれ、笑わせるな。

私は大袈裟に笑って見せた。

「副主将がなに偉そうにしてんの？…まあ、主将があれじゃあ…ねぇ！」

こんな未来だとわかっていたなら、バレーを知る前…いや、

いっそ…生まれて来なきゃ良かった。

「今のあんたに、何ができんのよ」