蝉の聲に溺れる【HQ】

わるもの。12 ページ12

及川視点

昼休み、屋上の扉を開けると、そこに先着が居た。

「あれ、A。こんなところでどうしたの？」

「あ、あぁ徹。ううん、ちょっとね」


すると、彼女は何かをポケットにしまった。

「足、早く治って良かったね！じゃ、またあとで！」

優しい笑顔でそう言うと、屋上を出て行ってしまった。



A視点

帰り道のことだ。

「っあーもう！」

私はスマホに向かって叫んだ。


ってか、なんで追加しちゃってんの！

昨日…断った筈なのに。

『あっじゃあ気が向いたらでいいべ！はいこれ』


そう言って渡されたのは小さな紙切れ。

そこには、彼の電話番号が書いてあって。

『よろしくな！』


あの笑顔…壊したくなる。

あんなにお互い嫌っているのに。

なんで、…疑問が深まっていった。




LINEの返事が来たのは、家の用を済ませ、テレビをのんびり見ている時だった。

返信っていうか…返事。

『まじで、追加してくれるとは思ってなかったべ…』


既読がついた途端、すぐに電話がかかってきたのだ。

『な、友達になってくれたお礼にどっか行かない？』

「は？誰があんたと行くのよ」


ただ一人、私の本心を知る人。

それだけで、なんとなく心が軽くなった。

『おーねーがーいーします！』


って、結局あんたが頼んでんじゃん。

「…はぁ。まじ、あんた嫌い。好きにすれば？」

そう言って一方的に電話を切る。


すると、今度はちゃんと返信が来た。

≪さんきゅ！≫

…ほんと、情緒が乱れる。こいつと居ると。

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