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既に時刻は8時20分を回る。
教室には次々と生徒がなだれ込み、自分の席について行く。
視線の先には、窓際の後ろから二番目のまだ誰も座っていない席が映る。
今日も、まだ来てない…。
その席を見てるだけで、俺の心臓の鼓動は高鳴り、息苦しくなる。
「ふぅ…」と呼吸を整えるために吐き出したため息が、教室内の雑踏と雑音に交じって消えていく。
高鳴る鼓動は、俺の体力をどんどんと削っていくのだ。
まだ始業時間にもなっていないというのに。
でもそれ以上に、あの席が埋まるのを、俺は心待ちにしている。
大体8時25分から28分の間にはいつも教室に入ってくる。
教室の時計はすでに26分を回っている。
もうそろそろだ。
そう思って視線をあの席から、教室の扉へ移してみた。
ガラガラと扉が開き、丁度あの席の主が入ってきた。
今日もいつもと変わらず、死人のような浮かない顔をしている。
「さ、佐野君、おはよう」
俺は息を整える暇もなく、口早に彼にそう声をかけた。
「おう、おはよう仁人…」と、小さく、覇気のない声を出す彼の顔は、せめて俺に不快感を与えないようにしてくれたのか、死んだような顔を一変させて、にこっと口角を上げてほほ笑んで見せてくれた。
その笑顔だけで、この息苦しさも、心臓が高鳴る疲労感もどうでも良くなる。
そうだ。
前に塩��君が言っていたように、俺は、本当は佐野君のことが好きだ。
友達としてではなく、言ってしまえば、恋人にしたいって、普通の男子ならば、女子に恋をするように、俺は佐野君を愛している。
佐野君のためだったら、俺は何でもする。
いや、もしかしたら佐野君に関することだったらそれが佐野君のためじゃなくても、何でもするかもしれない。
たとえそれが人間の倫理に反することだったとしても…。
そして俺は、自分の席についた彼の憂いを帯びた横顔に見惚れていた。
彼の後ろの席の塩��君が、そんな俺をじっと見ているのにも気が付かずに。
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年1月11日 18時
