溺れる偽愛 (ページ9)

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『今から買いに行く？あ、俺まだ講義あるんだったわ』

そんな言葉をひたすらかけられても、私の耳には全く入らない。

苛立ちの方が勝ってしまって、何も知らずにベラベラと喋る田中樹が目障りだった。

気付いたら、私の目には涙が浮かんでいた。

『は…？泣いてんの？』

鼻の奥がツンとして、これからもっと涙が溢れてくることを示唆した。

『ペン失くしたくらいで泣くなよ。…めんどくせぇなぁ』

今まで我慢してきたけど、その最後の一言で私の中に張っていた糸がプチンと切れた。

「あのペンは…私の大事な物だったの」

『え？』

「中学の頃に父親から貰ったペンで…。でも、パパには…もう会えない」

『…』

なに言ってんだろ…私。

こんなことこいつに言ったって、なにも…。

…だけど。

「なのになんで失くすの！！返してよ私のペン…」

『おい…落ち着けって』

気付いたら彼に掴みかかっていて、涙でぐしゃぐしゃになりながら感情を爆発させた。

『…悪かったよ。そんなこと知らなかったから』

「酷すぎる…」

だんだん彼の服を掴む力が無くなってきて、俯きながら止まることのない涙を流し続けた。

分かってる。

いくら気持ちを訴えたって、もう2度とペンが返ってこないことは。

だけど彼は知らないだろう。

私がどれだけあのペンを気に入ってたかなんて。

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