溺れる偽愛 (ページ7)

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そして遂に講義が終わり、田中樹が来る時間帯になった頃。

慎太郎は足早にバイトに行っちゃったし、私もたまたま次の講義を受けるから心の準備は出来るものの、やっぱり話しかけるのは緊張する。

少し教室で待っていると、女子のざわざわした声が遠くから聞こえて。

あ、来たな…。

となんとなく分かった途端に心臓のバクバクがだんだんと上がっていく。

そして彼が教室に入ってきたのをちらっと見ると、昨日感じた印象と特に変わらず。

チャラそうでピアスも付けて髪の毛も明るくて…、やっぱり苦手だと再確認した。

私が座っている席よりも3つほど前に座った田中樹。

女子がざわざわしているのも慣れた様子で、スマホをいじりながら静かに過ごしていた。

なんか…イメージと違う。

あれだけ女の子が寄ってきて満更でもなく笑顔で対応しているもんだと思ったら、特に相手にするわけでもなく無言。

…これがモテる奴の余裕なのか。

彼の後ろ姿を見ながらそんなことを思ってしまい、自分の勝手な解釈により、一段と悪く印象を受けた。

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そして講義が終わり、田中樹が去るのを見計らって自分も席から立ち上がる。

教室から出る直前で、思い切って自分のメンタルを全て使い果たすように声をかけた。

「…あのっ！」

『なに？』

振り返って私を見た彼は、気怠そうにそう答えた。

「あの…ペン、返して貰えますか？」

『ペン？』

「昨日、慎太郎から…ペン貸してもらいましたよね？」

『…あぁ』

「あれ、私のなんです」

『そうだったんだ』

彼の第一声が怖かったせいか、そのあとの話し方が割と優しく感じて少し心の余裕が持てた気がした。

『たぶんサークルの部室にあると思うけど…、ちょっと来て』

「あっ…はい」

眉毛をピクッと上げながらも柔らかい表情で話した彼に誘導されて、サークルの部室へと向かった。

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