溺れる偽愛 (ページ43)

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『俺は…これで良かったと思ってる』

「え…？」

『ペンを失くした俺が言うのはおかしいけど、あの一件がなかったらAと出会ってないし』

「…」

『付き合ってもないだろうし。話すこともなかったでしょ、きっと』

酔ってるのかな…。

でも

素面であってほしいと強く願った。

『ロマンチックなこと言うつもりないけどさ、運命だと思ったよ。こうなること』

無意識に溜まる涙。

それは、私の罪の意識を軽くするようだった。

『俺…ペン探すから』

「え…だってもう…」

『見つからないかもしれないけど、俺探すから。どこかにあるかもしれないし』

「樹くん…」

私はなんていい人に巡り合ったんだろう。

もうないかもしれない物を、絶対にあると信じてくれるなんて。

それも

自分のためじゃなく、私のために。

そのあと

お互いに何杯か飲んで、私はまぁまぁ酔いが回ってるけど彼はほとんど顔も赤くなくて。

色んな話をした。

なんの話をしたのか覚えていられないほどに。

『Aってさ、俺のことどんな風に見てた？』

「え？」

『教えて？』

いきなりとろんとした目でそんなことを言う彼に多少驚きながらも、私も酔った勢いで本当のことを口走った。

「私は樹くんと話すまで存在を知らなくて、あれなんだけど…。でも、周りは…遊んでる人だって言ってた」

『んは、そっか～。やっぱそうだよなぁ』

言ったあとに気付いた。

デリカシーないな私って。

でももう取り返しがつかなくて。

どうしたらいいか分からなかった。

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