溺れる偽愛 (ページ12)

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『じゃあ俺このあと授業あるから行くわ』

「あ、ちょっと待って！」

腕時計を見て時間がギリギリだったのか、慌てて部室から出て行こうとするのを咄嗟に止めた私。

『なに？』

「あの…連絡先、教えてよ」

付き合うなら連絡先くらい知っとかなきゃ…。

いきなり冷静になってそんなことを求める私は、ほんとにどうかしてる。

『してやりたいんだけど、俺ほんとに時間ないから。まだ講義残ってる？』

「午後からなら…」

『あー俺午後は講義ないから…明日でいい？明日交換しよ』

「…分かった」

『ごめんな。またね』

そう言って彼は教室へと小走りで向かっていった。

部室に1人取り残された私は、あの人の後ろ姿を見送ったまま動けなかった。

田中樹の走る足音が聞こえなくなったあと、事を重大さをじわじわと実感する。

…なにやってんだ私。

私と付き合ってってなんだよ。

しかも本当にそうなっちゃったし…。

冷や汗が流れてくるのを感じながら時計の針の音だけが響いていた。

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