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iw side
みんなの喜ぶ顔を見るたび、改めてバーテンダーの仕事が好きだなと思う。
家族を失った絶望の中、紹介を受けたからという単純な理由で始めたこの仕事。
別にお酒に特別興味があったわけではないし、最初の頃は右も左も分からず、言われたことをやるだけで精一杯だった。
でも、知識や技術が増えていくにつれ、逆にその奥深さが見えてくるようで、気づけばのめり込んでいた。
もちろんその時は、それがこんな形で花咲くとは思っていなかったけれど。
「ふっかは、この企画の相談ついでに、もう自分のカクテルが何かは知ってる。でも作るのは今日が初めてなんだ」
実は、レシピが最後まで完成しなかったのがこのカクテルだった。リキュールの配合を何パターンも試し、それでも上手くいかなくて、グラスを変えたり温度を変えたりしてやっと完成させたんだ。
これが今日の最後の一杯。この一杯に、ありったけの感謝の気持ちと、未来への願いを込めよう。
「バイオレットギムレットです。スミレの香りのするカクテルで、カクテル言葉は、何事も楽しめるセンスの塊の自由人」
そう言ってグラスを差し出すと、さっきまでワイワイ騒いでいたみんなが、すっとこちらに注目する。
fk「この見た目、結構予想外かも。カクテル言葉からしてもっとパンチのある感じかと思ってた」
「ふっかはそういう感じじゃないと思って。自分自分ってバチバチに意識して発散してるっていうより、周りに呼応して自然に自分の色を出してる。
だから、とんでもないことしてるように見えても最終的に賭けに勝つ。それをセンスの塊の自由人と呼んだわけだ」
fk「だから照れるって。この前よりもめちゃくちゃ踏み込んだ説明にパワーアップしてるし」
「あと、このカクテルは俺からお前への願いでもある。店長って結構な重圧だろ。でも、このカクテルみたいに、気負わず自由なままでいて欲しい。自然体で、みんなに愛される店長になって欲しい。そのためなら、俺が力になるから」
俺の言葉が終わるその時、目の前のふっかの瞳から一筋、涙がこぼれた。
「え、ちょ、泣く?!」
fk「泣いてねぇし。でも、それ聞けて本当に良かった。今の言葉、大事にする」
こうして、前夜祭は無事に終わったのだった。
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作者名:わかめ | 作成日時:2020年1月15日 1時