プロキオン【霧野蘭丸】 ページ33
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その日雷門中学校はこの冬一番の大寒波に見舞われていた。吹きすさぶ風が制服の隙間から蘭丸の肌をことごとく冷やし、昼からは雪が大きな塊になってしんしんと降り始めている。行きの路で転びかけて恥をかいたのもついてないし、おまけに期末考査の二日目、もともと得意とも言えない科学の出来は芳しくない。
ハードな練習の日々が時にうとましくなる時もあるが、いざ休みとなると恋しいのだから自分もそれなりにサッカー馬鹿らしいと白い息を吐き、蘭丸はなんとなくサッカー棟に足を運んだ。ふとすぐそばのベンチに座り込む女生徒の姿を見つけ、緩慢にもたげた頭がこちらを向き、それがAであることに気がついて蘭丸はぎょっとした。
視線が交わり、ひと目で彼女が憔悴していることが分かってしまった。
「びっくりした……」
「こっちこそ……、こんなところで何してるんですか？」
「うーん、ちょっとね」
鞄が手元にあるあたり帰宅の準備まではしていたらしい。
思春期のよくあるセンチメンタルで済む話ならひとつ聞いていくのも悪くない。どうせ早く帰ったところでいくらかは時間を無駄にするのだし。
蘭丸は「雪だらけですよ」と声に出したはいいものの頭に触れるかどうか迷ってついにできなかった。代わりにベンチの雪を簡単に払うと並んで腰を下ろす。
「根岸先生って本当にありえない。みんなで抗議しにいく予定なの」
「あんなに好きだって言ってたのに、何があったんです」
「事前に範囲を教えておいて違うところから出すなんて信じられる？ ひどすぎる！」
それからしばらくAも蘭丸も雄弁だったが、時折沈黙が降りた。やはりいつもの覇気がない。指先がちりちり痛んで蘭丸は着込んでこなかったのを後悔していた。彼女に貸せるものがなにもないじゃないか。
やがて、観念したのか黙りこくってからこちらを見つめて数秒、彼女が諦めたように笑った。その先の言葉が絞り出される前に、瞬間まるで虫の知らせ──なにかとても悪い予感に蘭丸の背筋が凍った。
「実は、失恋しちゃったんだ」
世界が時を止める。されど雪はどこまても降り積む。口にすると声は濁り、涙がひとすじ頬をつたっていく。
「ごめんなさい……私、あなたをそのまま帰してあげるべきだったのに」
今日がこんなにも冷えていなければ貴女の頬に流れる水も雨のせいにできたのに。蘭丸は呆然と寒波を恨む。赤い鼻先、頬、涙は雪を溶かす透明な高潔の雫。
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ヅカ(プロフ) - 蒼依さん» 返信が遅くなってごめんなさい！ 作者です。シャボン玉みたいな短編集、、、ウレシ〜です！♡ 過去に書いた拙い話も多く載っていますが、好きになってくれてありがとうございます！ よろしければこれからもいらっしゃってくださいね(^-^)v (6月14日 22時) (
レス) @page29 id: 841dbd16f5 (このIDを非表示/違反報告)
蒼依 - 確かに不穏なものが多めですがそこがラヴだしあたしこういうシャボン玉みたいな短編集好き^ - ^ 金魚のはなしいいですね！！！💖 (2023年2月2日 0時) (レス) id: 210e1b584c (このIDを非表示/違反報告)
ヅカ(プロフ) - つぉいさん» 本当にありがとうございます嬉しいです泣泣 私はその言葉でまた書いていけます(; ;) これからも気が向いた時に見にきていただけたら幸いです！ 新しい話書こ〜〜〜〜〜〜〜︎（◜𖥦◝ ） (2022年10月16日 18時) (レス) id: 841dbd16f5 (このIDを非表示/違反報告)
つぉい - 文字の、ひとつひとつに、綺麗な光が灯っていてとてもとてもうつくしいなあと思いました。ありがとうございます。 (2022年10月9日 2時) (レス) id: 4f84d41f05 (このIDを非表示/違反報告)
ヅカ(プロフ) - りんさん» やったー！！ 応援ありがとうございます(;-;) 気まぐれな更新にはなってしまうと思いますが付き合っていただければ幸いです！ コメントありがとうございましたp(^-^)q (2021年3月7日 23時) (レス) id: c875d84994 (このIDを非表示/違反報告)
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