墓標は此処【風丸一朗太】 ページ1
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その年一郎太は陸上の大会で優秀な成績を残した。一郎太はメダルの紐を手に持って目の前にぶら下げながら通学路を歩いていた。金ぴかで少し重たい。あのトラックを走った少年は台風をひきつれていた。そんな表現も比喩にならないほど、一郎太は風のこどもだった。
「気に入ってるんだね」
隣を歩くAはもの悲しい顔をした。Aは陸上をやっている訳ではないけれど、一郎太が何か名誉なことをしたのが羨ましいのかもしれない。一郎太は満足そうにはにかんでみせる。
一郎太は怨み言なんかを押し込むように唾を飲んでメダルを見つめた。一郎太は自分の中で暗示をかける。ほら、俺はこんなにも凄いじゃないか。俺は速い。俺より速い奴なんか居ない。俺は……。
この脚が腐り果てて対をなし得なくなったとき、ようやく救われると思い込むうちは……何かを患っているのかもしれない。いっそ弔ってしまいたい。もう誰も一郎太を救えない。
「やめなよ」
自己暗示は、ぷつりと途切れてしまった。目の前に立ち塞がる小さな人間。Aだ。一郎太の自己嫌悪がぶわりと広がっていくのを感じる。どうしようもなくて何歩か後ずさるとAは一郎太の手からメダルをいとも簡単に奪い取ってしまった。
なにするんだよ。夕光を受けた顔が感情を露に歪んでいる。湿気が多くて嫌になる風は、一郎太の知っているものとは違うような気がする。おれはいったいどこまで走るのだろう。おれはいつまで走り続けるのだろう。考えて、一郎太は吐き気がした。
喉の奥がつまる一郎太。そんな彼を見てAは走り出してしまう。通学路から何倍も離れた所へ。待てよA。一郎太は足が速かった。Aに追い付く筈だった。
こんなときふいに考える。自分はいつまで走るのだろう。どこが終わりなのだろう。あのトラックを走っているときも本当はそんなことばかり考えていた。走って、とにかく走って、奴の背中を僅かに手が掠めた。Aは急に立ち止まり、振り返る。
「このメダルとあなたはよく似てる。どちらも見てくれだけ繕ったただのおもちゃ……」
一郎太は考える。いつまで走るのだろう。どこまでゆくのだろう。考えて、考えて、足の速いAが泣いてしまっている事に気付いた。なんと愚かな、少女は一郎太のメサイヤになりたい。Aは糸がきれたように大泣きした。
こんな時に一郎太は考える。ああ、俺たちの終着点はいったいどこなのだろう。
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ヅカ(プロフ) - 蒼依さん» 返信が遅くなってごめんなさい！ 作者です。シャボン玉みたいな短編集、、、ウレシ〜です！♡ 過去に書いた拙い話も多く載っていますが、好きになってくれてありがとうございます！ よろしければこれからもいらっしゃってくださいね(^-^)v (6月14日 22時) (
レス) @page29 id: 841dbd16f5 (このIDを非表示/違反報告)
蒼依 - 確かに不穏なものが多めですがそこがラヴだしあたしこういうシャボン玉みたいな短編集好き^ - ^ 金魚のはなしいいですね！！！💖 (2023年2月2日 0時) (レス) id: 210e1b584c (このIDを非表示/違反報告)
ヅカ(プロフ) - つぉいさん» 本当にありがとうございます嬉しいです泣泣 私はその言葉でまた書いていけます(; ;) これからも気が向いた時に見にきていただけたら幸いです！ 新しい話書こ〜〜〜〜〜〜〜︎（◜𖥦◝ ） (2022年10月16日 18時) (レス) id: 841dbd16f5 (このIDを非表示/違反報告)
つぉい - 文字の、ひとつひとつに、綺麗な光が灯っていてとてもとてもうつくしいなあと思いました。ありがとうございます。 (2022年10月9日 2時) (レス) id: 4f84d41f05 (このIDを非表示/違反報告)
ヅカ(プロフ) - りんさん» やったー！！ 応援ありがとうございます(;-;) 気まぐれな更新にはなってしまうと思いますが付き合っていただければ幸いです！ コメントありがとうございましたp(^-^)q (2021年3月7日 23時) (レス) id: c875d84994 (このIDを非表示/違反報告)
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