9話 ページ9
Aは幼い頃から、山がすきだった。虫は多いし足元を覆う草花の朝露はくるぶしを濡らすし、どこがすきなのかと問われてもはっきりとは答えられない。それでもAは山がすきだった。
特に、夏の裏山がすきだ。
夏休み、狭い山村の小学生たちは学年の垣根すら超えて距離が近く、毎朝うるさくインターホンを鳴らしてはやれ虫取りに行こうやれザリガニ釣りに行こうと誘いに来る。
Aはそれらの誘いをすべてあっさりと断りきり、ひとりで今日も山へ登る。
……どうしてそこまで裏山に熱をあげていたのか、今はもう欠片も思い出せない。何年も前の話だ。
ただ脳裏に焼き付いているのは、もういいかい__まあだだよ__とやまびこを含んだ声の応酬。そして日の沈みゆく山頂で見た、誰かのひろい背中__あれはいったい、誰の?
隠れん坊という遊びはもちろん、相手を探すものだ、それは不変の真理で、その定義がなければ隠れん坊は成り立たない。
(……でも)
(わたしが探していたのは、ほんとうに人だった?)
毎日毎日山のなかを転げ回って、木の根元を掘り返して、爪に血が滲むまでそれを探した。
(あのとき山頂に立っていた
日の入りの逆光のなか、Aの見たあの背中、腕はなく__脚も、片方しか__そして極めつけに、振り向いた彼の眼窩はからっぽで、ただ黒々した空洞があるのみだった。
探していたのは彼の腕に、脚に、瞳だった、とAは確信する。
「それはAの大切な人やった」
遠くでショッピの声がする。
Aはほんの一欠片残った理性で抵抗を試みる。
大切な人だなんて、そんな曖昧で不確かな言葉が許されるなら、この世に生きている、今まで袖を振りあってきた人間全員が大切な人になってしまう。
「でも、そうでしょ?」
とおくでショッピの声がする。
*
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桜華(プロフ) - こんにちは!初コメント失礼致します!神様モチーフの素敵な作品、これからどんなことが待っているのかワクワクが止まりません!無理のないよう、更新頑張ってください!青,い,鳥の方、フォロリク失礼致します。 (2022年7月3日 15時) (レス) @page8 id: 1bda5ccdb4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kaniska | 作成日時:2022年7月1日 17時